アスペラル | ナノ
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 場所は移り、魔族の国・アスペラル……

 ロゼッタの姿は離宮の書斎にあった。彼女の午前はシリルとの一般常識の勉強。シリルを教師として、ロゼッタは授業を受けていた。
 最近になってようやく彼女の勉強は、文字の練習から脱した。そして本格的に一般常識の勉強になった。

「では今日はこの国の階級制度について、お話ししたいと思います」

 小さめの黒板を用意したシリルは、片手に白墨を持ちながら柔和に微笑む。黒板には几帳面な字で、アスペラルの階級制度について、と書かれている。
 そんな黒板とシリルを、ロゼッタは椅子に座りながら興味津々に見上げていた。その横には同じく座っているアルブレヒトが。

「質問があったら、いつでも質問して下さって構いませんからね」

 本当にシリルの本職は文官なのかと疑ってしまう位、彼は教師向きの人だった。何を教える時でも丁寧で上手。
 ロゼッタも、アルブレヒトさえ関心する程であった。

「勿論知っていると思いますが、アスペラルは君主制です。そして世襲制で、王位は親から子へ受け継がれてきました。ロゼッタ様のお父上、つまり陛下も前陛下より王位を継いで第63代アスペラル国王となりました」

 シリルはまず黒板の上部に、白い文字でアスペラル国王と書いた。分かりきった事だがつまり、アスペラル国王が階級の一番上にいるという事を差しているのだ。
 そして次は、とシリルは微笑む。

「この国の政治は、次に宰相が大きな権力を持ちます」

「さい、しょう?」

 聞きなれない単語にロゼッタは首を傾げる。
 シリルは黒板にさらさらと素早く、国王の文字の下に宰相と書いた。

「国によって役割は微妙に異なったりしますが……アスペラルでは王の補佐を行い、政治を行う官の一つです。宰相は一人しか置きません」

「へー」

 王が政治を行う上で、重要な役職である事がロゼッタには分かった。国王になる気はないが、興味津々に頷いていた。
 最初は難しい話なのだろうか、と本当はロゼッタは心配に思っていた。しかしシリルが噛み砕いた表現で教えてくれるため、彼女にも分かりやすい。

「今の宰相は陛下の叔父上……前陛下の弟君が務めていらっしゃいます」

 ロゼッタの父親にとって叔父にあたるならば、彼女にとって大叔父にあたるのだろう。宰相という偉い立場にも血縁がいるとは思ってもいなかった。
 祖父の弟となると、ロゼッタは随分歳が離れているのだろうと思った。予想では白髪のお爺さんを思い浮かべた。

「前陛下と現宰相は歳が十二程離れていたそうですよ。叔父というより、陛下にとって兄の様な存在なのだと軍師が仰っていました」

 彼女の考えていた事は、どうやらシリルには筒抜けだったらしい。
 だが、階級制度には関係ない話でも、ロゼッタには興味深い話である。会った事は未だない血縁だが、こういった話を聞ける機会など滅多にないのだ。

「そして、次に偉いのだが……」

 シリルは話を戻した。まずは黒板の宰相の下に、何かを書き加え始める。最初は彼が陰になって見えなかったが、書き終わった後に見てみると、宰相の下には軍師と書いてあった。
 軍師という役職を見て、ロゼッタがまず思いつくのがリーンハルトだ。だがこれでは彼がとても偉いという事になる。
 しかし、普段の彼はロゼッタには痴漢行為を働く軽い男にしか見えない。

「三番目にあたるのが軍師という役割ですね」

「ちょ、ちょっと待って下さいシリルさん……軍師って……」

 ええ、リーンハルト=コーエンの事ですよ、とシリルは至って普通に言う。にこやかに彼は笑っているが、彼女には違和感が多過ぎた。

「ハルトって、そんなに偉いの……?」

「ええ、私やリカードよりも偉いですよ」

 偉いとは聞いていたが、国で三番目に偉いと言われるとなるとまた別だ。嘘だ、という呟きが彼女の口から漏れる。
 リーンハルトは見た目は格好良いの部類だが、中身は変態、そして痴漢行為を当たり前の様に行う男。一歩間違えば犯罪者の様だ。
 ある意味、何故彼が軍師という職に就けたのか気になるところである。


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