君生まれし日





「あのー、幸村くん…?」 


ブン太の遠慮がちな声でハッと我に返る。


「…なんだい?ブン太」
「あ、いやぼーっとしてたから大丈夫かよぃ?…って思って。」
「あ、あぁ。うん大丈夫だよ、ありがとう。」 
「……そっか。」


気がついたら部誌を書く俺の手は止まっていて、
無意識に彼女のことを考えていた、ようだ。


忘れるはずもない、今日はnameの誕生日だ。


今日はどこで誰と過ごすんだろう。
家で家族とケーキでも食べるのかな、
友達とカラオケでも行くんだろうか。
…それとも誰か知らない男と二人で過ごしているのかな?


なんて。


そんなこと考えてたってどうしようもないのに。



はぁ、と一つため息をついて、
また、止めていた手を動かし始めた。


それでも、やっぱりつい
彼女のことを考えてしまう。




去年の今頃はきっと花を選んでいる頃だ。

nameの誕生日には、
彼女に似合うピンクのかわいらしい花を
プレゼントしようと考えていた。
にも関わらず、買いに行くのを
すっかり忘れていて、それに気が付いた時は、
顔が青くなっていくのが自分でも分かった。
部活が終わると着替えもせず、
走って買いに行ったんだ。


夕方でもうそんなに花の種類がなくて、
焦っていると、お店の人が奥から、
「今はピンクの花はこれしかないの」と
持ってきてくれた。
それはまさにnameにぴったりの花だった。

普通の花の倍ほどの値段だったけど、
nameの喜ぶ顔を想像すれば、
もうそんなことはどうでも良かった。


nameの家まで急いで走って渡しに行った。 
お誕生日おめでとう、と花束を手渡せば、nameは見たことないくらいに幸せそうに笑ってくれた。
それだけで、俺は死ぬほど嬉しかったんだ。

あの時の光景は今でも、
昨日のことのように鮮明に思い出せる。






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