あなたのものにして






『私のものになってよ。』


もしその場でその一言を聞けば
誰もが耳を疑うだろう。
あの跡部にこんな事をいう人間は普通いない。

しかしそれ以上に驚いたのは
その言葉に対する答えだった。


「はっ、いいんじゃねーの。」















『…っん』


甘い声が誰もいない静かな廊下に響く。
何度も角度を変えて濃厚なキスをする。


『っは…っ』
「…nameちゃん」
『…ん?なに?』
「生徒会長さんにバレたらヤバくないの?」    
『さ?別にいいんじゃない。』



そんなの、今更だわ。

だって私の彼氏…跡部は
私がどこで誰といつ浮気しているかなんて
完璧に把握してるに決まってるもの。


それでも、何も言ってこない。



『そっちこそ彼女にバレて大丈夫なの』
「はは、授業中だし、バレねぇよ。」



そう、なんて言って。さっきの続きを始めた。
別にこの人の彼女にバレようが、
誰かに目撃されようが、どうだっていい。

あっちが求めてきたから応えた。それだけ。



私は跡部が好きだった。
少なくとも告白した時は間違いなく。
まさか、OKされるとは思ってなかったけど。

だから、別の男とたまたま二人でいるところを
見られたときは、心臓が飛び出すんじゃないか
ってくらい、悪い意味でドキっとした。

間違いなく、跡部と目はあっていた。
でも跡部は何も言ってこなかった。
そのあと二人であっても何も。
まるで別に何もなかったかのように。


それが信じられなくて、その後一度試すため、
また他の男と恋人のように、
仲良くしているように見せたが
その時も何も言ってこなかった。

今度は目の前でキスをしてやった。
それでも跡部が何か言ってくることはなかった。

それからはもう、他の人と何しようが
罪悪感が生まれることはなくなってしまった。

跡部のことをどう思っているかも分からなくなった。



「nameちゃん、今日はひま?」
『うん、ひま!』
「じゃあ遊びに行こうぜ、二人で。」
『いいよー』



昼間とはまた別の男子が話しかけてくる。



担任からの話も終わって、いわゆる放課後の今。
もちろん教室にはあの跡部もいるわけです。

しかしそんなのはもう誰も気にしなくなった。
跡部がいようがいなかろうが、
クラスの男子は私を誘ってくる。


跡部がこっちに向かって歩いてきた。
でも別にこれはいつものこと。


『……』
「じゃあ。」


そう言って跡部は部活へ向かう。
この言葉がなかったら、私達は
本当に付き合っているのかもわからない。

この言葉だけが私たちを繋いでいる。
胸がチクっとする。


…どうして。
どうして私の方が苦しいの?


「nameちゃん?大丈夫?」
『…大丈夫だよ。で、どこに行くの?』
「ん?ああ、ゲーセンでも行こうぜ!」
『わかった。』


またプリクラか。

なんで中学生はこんなにもプリクラを
撮りたがるんだろう。私も中学生だけど。

まあどうせ私は払わないからいいけどね。


「nameちゃん、何か欲しいのある?俺、UFOキャッチャー得意だからさ!」
『そうだなぁ……』


周りを見てみるが
ゆるキャラのマスコットやアニメのフィギュアや
お菓子……これといって欲しいものはない。


「ほら、これ今女子の中でハヤってんだろ??」
『どれ?』


指差す方向を見てみると、
ふわふわのストラップがあった。

なに、これ。冬ならまだしも、
今こんなの持ってたら暑いに決まってるじゃん。


『へぇ、そうなんだ。』


ふとそのUFOキャッチャーの
横の子供用の小さめの機械を見ると
ライオンのマスコットがあった。

頭に王冠をかぶっていて、
赤いマントまでつけていた。
種類がいくつかあって、
サッカーをしてるライオンや
野球のバットをもっているライオンもいた。


あ、テニスのもあるんだ。
なんかあれ跡部に似てるなー、なんて。


「nameちゃんはさ、ピンクってイメージだよね。とろうか?」
『え?ううん、いいよ。今付けるとこないし…。』 「そっか、じゃあプリクラでもとる?」
『うん。』


新作と書いてあるプリクラ機に入って、
いつも通りの代わり映えのないポーズをとって、
適当に落書きをして、印刷されるのを待った。


近くを通った女の子が、
あのバレーのライオンのマスコットを
友達と二人でつけているのが見えて…、

あれ、やっぱり、、ちょっと欲しいな。


『ねぇ、ちょっとお手洗行ってきてもいいかな?』
「いいよ、ここで俺印刷終わるの待ってるから。」
『うん、ごめんね。』


子ども用の台だったし、多分私でも取れるよね。
500円くらいなら一応持ってきてるし大丈夫。
自分でとりたい。


さっきのライオンのところに
戻ってくると運良く取り出し口の近くに
テニスバージョンのライオンがあった。


『…これなら私にでも取れる!』


そう思って100円を入れたとき、


「ねえ、ちょっといいかな。」


横から声をかけられた。
女の子だ。おそらく同い年くらいの。

全く見覚えがない。


『何ですか?』
「あのね、この辺で…「nameちゃん!こんな所にいたんだー…って、澪?!」


みお?
この子の名前かな。


「高橋…何してんの。」
「なにって…えー…と。」

あこの男の焦りようと雰囲気から
なんとなーく状況は理解できた。

コイツ、彼女いたんだ…。
面倒なことになったな。


「友達と遊んでるだけだけど…」
「ふーん二人で?あっそじゃあその手にあるのは何?」
「…これは、…」


埒が明かないと思ったのか
その澪と言う名の女の子はこちらを向いた。


「なに、うちの彼氏に色目使ってんの」
『…使ってないけど。』
「現に今二人で遊んでるわけじゃん!なんなの」
『彼女いるとか聞いてないし。だいたいそっちから誘ってきたんだけど』
「は?」
『誘われたから私は来ただけ。八つ当たりされても困るっていってんの。』
「お前、フザけんなよ」


最初話しかけてきた時とは
打って変わって低い声で言われる。

彼女の右手が私にすごい勢いで向かってくる。
しかも、平手じゃなくて拳で。

頬に鈍い痛みがきたのと同時に、
私の体は急な力に耐えきれず
後ろのUFOキャッチャーに思いっきりぶつかる。


「おい、澪やめろよ、」
「うっさいな!アンタが悪いんでしょ、黙ってなさいよ!」
『…めんど、』
「あ?今なんつった?」
 

また右手を振りかぶったのが見えて、
もう一発くるのか、と抵抗する気もないから目をつむった。



しかし、待てどもあの痛みは襲ってこない。

不思議に思って目を開けると、


『跡部…?』
「何してんだ、全く。」


跡部が彼女の手を抑えていた。


「離してよ!アンタに関係ないでしょ!」
「コイツは俺の彼女だ、関係ある。」
「は?見てわかんないの?!アンタ浮気されてんの!助ける必要ないでしょ!」
「あーん?助けるか助けないかなんてそれこそお前に関係ねぇだろ。」
「はあっ?!」
「おい、もう澪やめてくれ。俺が悪かったから。」




今度は跡部にまで手を出しそうな
勢いの彼女を止めた。


「ごめん。」


そう言うと彼女はポロポロと泣き出してしまった。


「ごめんな。」



…こっちはなんだか解決しそうだ。

でも、
コイツらがどうなろうと私には正直どうでもいい。

殴られた頬を少し抑えながら、
私はその場を去ろうとした。

が、跡部に腕を捕まれそれが遮られる。
いや、腕を掴まれたまま、
外に連れていかれたから結局その場から
去ったことに変わりはないんだけど。


『なに。今更何しにきたの。』
「お前なぁ…」
『だってそうじゃん!私が何しても何も言ってこなかったくせに…っ、今更…今更っ!』  


視界がだんだん歪んできて、下を向いた。
こんな顔見られたくない。


「name…。」
『…なによ。』 
「お前が私のものになって、っていったんじゃねーか。」
『…?  …言ったけど。』


一応聞くが、あれは告白だよな、って。
何言ってんの、当たり前じゃん。
口には出さない代わりに頷いた。


「俺は女と付き合ったことがないからな、そう言う事なんだと思ってた。」
『…そう言う事?』
「俺はお前のものなんだろーが。」


ちょっと言ってる意味が分からない。



「だが、お前は俺のものだと言われてないからな。お前が何しようと俺にとやかく言う権利はないと思ってた。」
『…えぇ?』
「お前が誰といようが、話そうが、一緒に帰ろうが、二人きりで遊ぼうが、手を繋ごうが、キスしようが、それ以上のことしようが。」



跡部を見ると真剣な目で話していた。


「だがな、お前を傷付けるとなれば話は別だ。お前が何をしようが許すが、それだけは許さねぇ。」
『……』
「…何か言えよ。」
『跡部…』
「なんだ?」
『バカなんじゃないの』
「あーん?」

 
付き合うって意味分かってるの?

跡部は私のものだけど、
私は跡部のものじゃない?
そんなのおかしな話だわ。

まさか、そんな理由で
私のすること全部許してたの。

あの跡部が?


『私、跡部にどうでもいいと思われてるのかと思ってたよ…っ』
「はあ?なんでそうなる。」
『だって…そんなほっとかれたら、普通そう思うよ!』
「……難しいな。」
『難しくない。あのね、跡部。付き合うってことはもちろん、跡部は私のものだし。私だってあなたのものになるってことなの。一人だけが好き勝手していいなんてないんだよ。』
「…そうか。お前が分かりづらい言い方するから…、」
『そんなとらえ方するの跡部くらいだよっ。』


そうか。
じゃあ私は今まで跡部に
とんでもなく酷いことをしてたんだな。

本当に最低だ。


『跡部、今までごめんね。』
「?」
『跡部以外の人と…』
「ああ、もういい。」
『それと、告白し直させて。』


すぅっと一つ深呼吸をした。



『跡部、私のものになって。
それで、私をあなたのものにしてください。』


恐る恐る跡部を見ると、
あの時と同じ笑顔でこう言った。


「はっ、いいんじゃねーの!」

















◇◆オマケ




『あ!』
「…なんだ?」
『100円入れっぱなしできちゃった!』
「別にいいだろ、それくらい。」
『よくないよ、だってあれは跡部に…』
「俺様に、なんだ?」
『ななな…ないない、やっぱ何もない!』
「…?」
『(今度また一人で行った時に取ろう。)』
『ふふ』
「何がおかしい」
『(そんでプレゼントしよう。そしたらまたあの笑顔を見せてくれるかな)』
『ううん、何も!』




∵あとがき

 遅くなって申し訳ありません。
 一年くらい前にいただいたリクだったのですが、
 もう忘れてしまわれたかもしれませんね…
 本当に遅くなって申し訳ないです!

 跡部心広すぎて泣けてきます←

 こんな駄文でよければ、
 また、まだ覚えていただけていたなら
 どうぞ、お持ち帰りくださいませ。

 リクエストありがとうございました!

 執筆 2014.08.10





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