02






日吉のあとを追って着いたのは、大きなホールだった。
近づいただけで甘い匂いが漂ってくる。



ホールに入ると入り口から奥まで
ケーキがずらりと並んでいた。


ショートケーキ、チーズケーキ、シフォンケーキ、
イチゴタルト、モンブラン、ムース……。


ステキ…。こんなスイーツの山、
女子なら誰でもときめく…!
あー、ダイエット中じゃなくてよかった。
素晴らしすぎる。




「あ、ありすが来たー♪」
「俺様を待たせるなんて何様のつもりだ、あーん?」
『ごめん、ごめん。』
「俺、ありすの横がいいC〜」
『うん、いいよ☆』



ということで私はジローちゃんの隣の席に座った。



「クソクソッ!俺がありすの隣狙ってたのに!」
「ほんま残念やわぁ…。」
「俺は先輩の隣なんて絶対にイヤですけどね。」




あぁもう、なんとでもいえ。

今の私はケーキの山に囲まれているから
とてつもなく寛大になっているのだ。



『ねぇ、跡部!ここのケーキどれたべてもいいの?!』
「あぁ、好きにしろ。全員そろったからな。」



そっか。みんな、私待ちだったもんね…。



…ん?
あれ、まだ全員はそろってないんじゃない?



『宍戸とチョタは?』
「そういえば、いないC〜」
「車に乗る時からおらんかったで。なぁ、跡部…?」
「あいつらは用事があるから歩いてくるっつってたぜ。」



あ、そうなんだ。それにしても遅いよね。



「あ、あれ、宍戸じゃねぇか?」



ホールの入り口から
こっちに向かってくる人がみえた。




『本当だ。おーい、宍戸!!』
「悪ぃ、おくれた…。」
『いいの、いいの。私も遅れたんだし。…ってあれ?チョタは?』



今、来たのは宍戸1人。いっつも2人でいるのに。



「おい、鳳はどうした?一緒に来るはずだったんじゃねーの?」
「長太郎…来てないのか?」


そう呟いた宍戸は少し心配そうな声だった。

何かあったのかな?



『来てないよ。何で一緒にいないの?』
「学校にいた時は一緒にいたんだけどよ…」


そうして宍戸は今ここに来るまでのことを話してくれた。










◇◆



今日はたしかケーキパーティとかなんとか言ってたな。
まったくいい気なもんだぜ、跡部も。


まあでも最近は練習キツかったからな。
たまには甘いもん食べんのもいいか。




「宍戸さーん!!」
「お、長太郎じゃねぇか。どうした?」
「宍戸さん、今日この前借りたCD返却日でしたよね?」
「そうだけど…」
「パーティどうするんですか?車が来てますよ。」



窓から外を見ると、
とんでもない車が止まっていた。



「……なんだ、アレ。まさか迎えの車か?」
「多分、そうかと…。あの大きさですし、全員乗ると思います。」



やっぱそうくるか。あの跡部だもんな…。



「じゃあ俺は歩いていく。ホテルまでの地図持ってるか?」
「あぁ、ありますよ。ていうか宍戸さんが歩いていくなら俺も歩きます!」
「そうか。サンキューな!」
「はい!」



ということで俺と長太郎はCDを返してから
ホテルまで歩いていくことにした。


…が、玄関まで来たところで俺はCDを
教室に忘れてきたことに気付いた。

CDを返しに行くっつってんのに
そのCDを忘れるとか…激ダサだぜ。



「悪い、長太郎。教室に忘れ物した。」
「あ、じゃあ俺はここで待っていますね。」
「おう。」



俺はいそいで、教室へ戻っていった。

待たせたら悪いしな。


教室はまだ人がいたから、カギは開いていた。
自分の机からCDを出して、ふと窓の外を見ると、長太郎が見えた。




……ん?あの横にいるのは誰だ?

長太郎の前には小さな女の子がいた。
小学生か?

長太郎がもともと身長が高いから余計に小さく見えた。

なんで中等部にあんな小さなガキがいるんだ?
妹…じゃないよな?


しかも服もあんまり普通じゃない。

普通じゃないというか、ロリータ…?みたいな感じだ。
結婚式に行くときの正装…みたいな。


とりあえず下に行こう。行けば誰かわかるしな。

俺はいそいで階段を駆け下りた。


こういうとき、岳人はいいよな。
ヒョイっと跳んでしまえば、すぐ降りられる。
……なんてどうでもいいことを
考えながら玄関まできた。


が、そこには、あの女の子
どころか長太郎もいなくなっていた。



「おい!長太郎?!どこ行ったんだ?」



今の今までたしかにここに居たはずだ…。
おかしい、アイツが俺をおいて黙って
先に行くなんて、まずありえない。


トイレでも行ってんのか?



…でも30分以上待っても長太郎はこない。


「仕方がねぇ。もう先に行くか…」



行かないわけにはいかないから、俺はもう学校を出ることにした。


地図だけを頼りに俺はホテルまでの道を歩いた。


長太郎が案内してくれるっていうから安心してたのによ。
アイツどっか行きやがって。全ッ然道分かんねぇよっ!!


少し歩くと向こうの方の道角に人が一人立っていた。
あの人に道をきいてみるか…


そう思って近づくと、



「?! 長太郎…?」




それは長太郎だった。




「時間がない…時間がない…。」



は?何言ってんだ、コイツ。



俺と長太郎の間にはまだ10mくらい距離がある。
あっちはまだ俺に気づいていないようだ。



「間に合わなくなってしまう…!!!」




なぜか、長太郎は焦っている。


約束の時間までには
たしかにもうあまり時間はないが…
そんなに焦ることか?


俺が話しかけようとすると、長太郎は走り出してしまった。



「あ、おい!!」
「ダメだよ。白うさぎを追いかけるのは君じゃない。」
「??」



声が聞こえて振り返ったが誰もいない。


長太郎も見失ってしまった。


「それは、アリスの役目。」




また声がきこえてきた。小さい子どもの声だった。
でもやっぱり誰もいない。
……なんなんだよ?!



「おい!!誰だよ?!どこに隠れてやがる!」




ーーーーー………。







返事はもう返ってこなかった。



「マジで、なんなんだ…?」



白うさぎ…?アリス?役目?何の話だよ、それ!!
長太郎の様子もなんか変だったしよ。


俺は路地の真ん中で一人ポツンと立っていた。

とりあえず、ホテルに向かう……か…。
















◆◇



「…んで、今に至るってわけだよ。」
「宍戸は言い訳がヘタクソやなぁ…」
「本当だっつの!」


ちょっと待って…
小学生くらいの小さな女の子って…
ロリータ風の服って、まさか…!



『宍戸…その女の子ってふわふわのショートカットだった?』
「あぁ…たしかそんな感じだったぜ」



やっぱり…。
それにアリスっていうのも今日きいたし…。



「なんか心あたりでもあんのか、あーん?」
『私…今日その子に会った、かも…』
「え?!」
「それいつのことだ?!どこで会った?!」
『え…っと、ここのホテルの入り口あたりで。』




あの子は"アリス"って人だけでなく、
長太郎のことも探してたのかな?


「俺が入り口まで行った時ですか?」
『そう!!でも日吉を見たあといなくなってたの。』



普通に考えてこの状況だと、あの女の子と
長太郎がここにいないのとは、関係ありそうだけど…
あんな小さな子に何ができるっていうの??




「ま、なんでもいいから、早くケーキ食おうぜー。」


なんとも空気の読めない男だ、岳人。
見事なKY。


「長太郎のことは明日、本人に聞けばいいじゃねぇか。」


そういって岳人はケーキを取りに行ってしまった。



「A〜。がっくんお気楽だC〜。」



まあでもたしかに、ここで
考えていたって結論は出なさそうだ。

それなら今は、せっかくケーキパーティ
しているんだし、楽しんだ方がいいよね。



『岳人の言う通り、今はケーキパーティを楽しもう?♪』
「ふっ。まぁそうだな。好きなだけ楽しみやがれ。」


そうして皆ケーキを取りに行った。



「ありす、見ろ!イチゴケーキのイチゴでかくね?!」
『うわ!本当だ、美味しそ〜!』
「俺はまずガトーショコラからやわ」
「バウムクーヘンもいい匂いだC〜」



ふと宍戸の方を見るとやっぱり元気がなかった。



「…………。」
『宍戸……。』
「なんだ、ありす。」
『チョタはきっと大丈夫だよ。』
「………あぁ。」
『ちょっと口あけてみて!』


私は宍戸の口にさっきのイチゴを放り込んだ。



「?!」
『いちばん大っきいの取ってきたんだからね!』


少しでも気が晴れたらいいな。
やっぱ部活仲間がショげてるのはイヤだよ。



『チョタは大丈夫。だから、元気出して。』
「………ありがとな。お前に気つかわせるなんて 激ダサだな、俺」
『まったくだよ。』
「なっ?!」


なーんちゃってって言ったら宍戸も笑ってくれた。

少しは元気になってくれたかな?
よかった、よかった。



「そんなの俺様に任せろ。大丈夫じゃなくても大丈夫だ。」
『は…ぁ?』




コイツ完全に頭イっちゃったかな。
日本語がめちゃくちゃですよ、跡部さん。



「おい、樺地。明日、鳳が来なかったら、すぐに捜索班を動かせ。」
「ほんま人使い荒いわ、跡部。」
「でもこれで安心だな!な、宍戸」
「あぁそうだな。」







この時、誰も気付かなかった。
跡部の言葉のあとに必ず返ってくるはずの返事が
返ってこなかったということに。


あの跡部でさえ気づき損ねていた。





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