08








森の奥に向かって走り続けること数分。
周りはすべて、木!!木!!木!!
森だから当たり前なんだけど。


これだけずっと、
景色が変わらないと、精神的にも疲れてくる。


自分の体力の無さに呆れかえるよ、本当に。
私、短距離向きだしー。


持久走とか嫌いなんだよね...。
あれは自分の弱さを身を持って体感するよ。

もぅいっかー...みたいな。最後の方は歩いちゃうしね。



今まさにそんな感じ。走り疲れてウォーキング中。



『チョター!いつまで走ってるのよー?!』



見つかる気配なし。


走っても疲れて悲しいし、一人で文句言っても悲しい。
何?この負の連鎖。


──ガサッ。





『へ?』




頭の方...木の上で何かが動く音がした。
ま、まさか...!チョタ?!



いや...でも、うさぎって木に登らないよね?

しかも、チョタみたいな大柄な人が
こんなにチョコマカ動けるわけ無い...。


と、色々と考えを巡らせている間にも頭上を何かが飛び回る。



『誰?!降りてきなさいよ!』



そう叫んでみたけど、一向に降りてくる気配はない。
木の上を渡り回っているから葉やら何やらが沢山落ちてくる。


あー...もう!なんかだんだん腹が立ってきた。




『降りていって言ってるでしょーが!!!!!』


思いっきり。

これ以上ないってほど思いっきり木を蹴ってやった。



「うっ...わ?!!」



すると、上でバランスを崩した
ソイツが落ちてきて、私の目の前でしりもちをついた。


うぉっしゃ!!勝ったよ!!
落としてやったよ!!ハーッハッハッハ...


...そう思ったのもつかの間。




私は驚きすぎてその場で固まってしまった。



だって落ちてきたその人は...
目の前でしりもちをついているその人は...




『が...岳人?』



真っ赤なおかっぱに、くりっとした目。それにこの身軽さ!!


もう岳人以外の何者でもない
......と思いたいところなんだけど!



コイツにもあった────。
耳が!頭からはえている耳が!



チョタのように長い耳ではなかったが、
その代わりと言ってはなんだけど、しっぽの方は長かった。

...猫ですね、猫。
ピンクと紫のしましまニャンコちゃん。

うそでしょ。なんでみんな動物化しちゃうの。




『岳人...あの、大丈夫?』



とりあえず、怪我はないようだが、
しりもちをついているので、手をさしだした。



「......」




ひぃ......。怖ぇー。
そうとう怒っていらっしゃる。





「白うさぎはハートの王様の使い。」
『......は?』



いやいやいや、大丈夫かい?岳人。
もしかして頭、打った?



「今日は王様と女王様の舞踏会だぜ。遅れたりしたら白うさぎ、首が吹っ飛んじまうかもな。」


しゃべり方は紛れもなく岳人...なんだけども、
言ってることは全くもって分からない...



『あの...岳人?何を言ってるの?』



私の質問には答えず、岳人はすくっと立ち上がった。

...あれ?!全然大丈夫じゃん!
しりもちをついて立てないのかと思ってた。




「遅刻したらいくらアリスでも首ちょんぎられるかもなっ」



そう言ってケラケラ笑いながら
岳人はまた木の上をピョンピョン飛び越えて
森の奥の方に消えていった。













『はぁ...??』




遣い?舞踏会?

首をちょんぎられる?

ハートの王様?
...ハートの女王様じゃなくて?



わ、わけわからん。
てか、岳人私のことアリスって言ったよね?!

いつもはありすって呼ぶのに...。


岳人も記憶を落としてるってこと...なのかな?



でも、ここに来るまでは
チョタのネックレスしかなかったはずなんだけど...。

おかしいな、見落としてる?








そんなことを考えていると上から何かが落ちてきた。


コツン───



『?!痛っ!』


落ちてきたのは、小さな羽のストラップ。

小さいっていっても、
あんな上から落ちきたら痛いっつーの!


誰だよ...まったく。


...そういえば、なんか、
このストラップ見覚えがあるなぁ。





そうだ、これ!岳人のケータイについてた...!


ということは...。これが岳人の記憶...?


 
 
なんなのよ、もう…。
見つけても、すぐどこかへ行ってしまうんだから。
こんなの記憶の返しようがないじゃない。



チョタも岳人もこんな小さい物だからいいけど、
カバンとか落とされたら困るんだけど。



跡部とか、車とか落としてそう。
あーもうヤダヤダ。




岳人どこに行ったのかなー…。
そういえば舞踏会がどうのこうのって言ってたな。

岳人もそれに行くのだろうか。
…チョタも多分行くんだよね?



ってことは、皆ソコに集まってくるんじゃないの?!
キャッ、私ってばかしこい!


明確な目的が決まるとスッキリする。



『よーしっ!城へ向かうぞー!!』



そう叫んで両手を空に向かって伸ばした。
気持ちがスッキリしたのもあって、
心なしか空がいつもよりクリアに見えた。









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