06







どうしよう……。




とりあえず、その辺を歩いてみようかな。




-不思議に思った少女はそのうさぎを追いかけて-




『不思議に思った少女は…か。』



私はもう少女っていうような歳じゃないと思うんだけどなぁ。



… うさぎ…白うさぎ?

白うさぎってまさかチョタのこと?
チョタに白い耳はえてたし。


ってことは、私が追いかけないといけないのはチョタだったんだ!

私、正解じゃーん!

あ、でも見失ったんだった…。



追いかけた後はどうすればいいんだったっけ。
-そのうさぎを追いかけて穴に落ちていきました-



気がつくといつの間にか
目の前にぽっかりと大きな穴があいていた。



『えー…。その、つまり、そういうことだよね…。』



落ちろってことですよね。
…断固拒否。絶対イヤだ。



『チョターー……』




穴に向かって叫んでみたけど、返事はない。


真っ暗で底の見えない穴。こんなの落ちたら自殺行為だよ。



『白うさぎさーん。いないのー?…』



穴に向かってこんなことを
言っている私は、もう相当頭をやられてると思う。


普通じゃないどころじゃないよ、本当。
道がわからないから帰れないし、落ちたくないから進めないし。



もう、最悪だよー…。


…でもどうせ、動くなら戻るより進む方がいいよね?

…うん、そうに決まってる。
とりあえず、前に進もう。



『よしっ。落ちるよ!私!!』



ズルッーーー



『へ?!』





覚悟を決める前に、足が滑って
なんと、私の身体は穴へ真っ逆さま。




『きゃああぁあぁぁあぁああ?!』




言葉通り、私は頭から真っ逆さまに落ちた。



でも、何秒たっても、何分たっても、底に辿り着かない。
恐る恐る目を開けてみるとそこはとても明るかった。



落ち続けていると、不思議と冷静になってきた。
いや、"落ちる"と、表現するのも間違いか…。

たしかに、さっきから下へ下へ行ってるんだけど、
落ちるというより降りるって感じだ。


ふわふわ身体が宙に浮きながらも
ゆっくりと降りていっている。


『……何これ。すごい。』












10分ほどたつと、やっと底らしき所へ着いた。


『…チョタぁ。いないのー…?』



周りを見渡したが、チョタこと白うさぎらしき姿はない。



代わりに形や大きさがバラバラの扉、数十個と、
真ん中にはテーブルとクッキーとラベル付きの瓶があった。



『本当にアリスみたい……。』




私は"不思議の国のアリス"のお話が小さい頃から大好きで、
文を全て覚えてしまうほど、何回も何回も読んでいた。

さすがに、もう覚えてないけどね。


だから、今、だいぶ不謹慎だけどちょっと嬉しいわけで。
だって、だって、自分の大好きなお話の中にいるんだよ?!


これは私がお話通りに進めばいいんだよね?
そうしたらみんなにも会えるんだよね?帰れるんだよね?


うん、きっとそう。

クッキーには"Eat me(私を食べて)"、
ラベルには"Drink me(私を飲んで)"と書いてあった。


『これは、たしか、食べたら身体が大きくなったり、小さくなったりするんだよね。』


よし、食べよう。…と、した時、
















「アリスだー。」
「本当だ。こんなところにアリスがいる。」
『?』



声のする方を向くと、2人の男の子がいた。


私と同じくらいの歳。スラッとしたスタイル。
1人はショートヘアで、1人はうしろで髪を束ねている。

髪型は全然違うけど、顔はそっくり。…双子のようだ。




『誰……?』
「俺?」「僕?」
『う…ん、二人とも。』
「俺はディー。」「僕はダム。」


ディー…ダム…。
もしかしてトゥイードルディーとダム??
いや、絶対そうだ!



もっと太ってるイメージがあったから、
少し理解するのに時間がかかったけど。


っていうか、ディーとダムって
もっとあとの方に登場するじゃないの?


私まだ、ここに来たばっかりだよ?



「アリスはどうしてここにいるの?」
『え…それはこっちのセリフ…。』
「どうして?」
『だって、君たちってもっとあとの方に出てくるんじゃないの?』
「「……?!」」




え…?何?私、何か
変なこと言っちゃったかな…?




「アリス…話を知ってるの?」
「アリスのお話、覚えてるの?」
『え、そりゃ有名な話だもの…。誰でも知ってるわよ?』
「あぁ…そうか、そうだよね。」
『??』



双子は顔を見合わせて頷いた。



「俺らはいつでも君の見方だよ。」
「そう、アリスじゃなくて君の、ね」
『? えぇ、ありがとう…。』




正直言ってる意味がよく分からなかったけど、
不思議の国だもん。そんなものよね。

そんなことより私は話を進めなきゃいけない。




『あの、このクッキーって食べたら小さくなるの?』
「なる…けど。」
「今は必要ないよ。」


え?


アリスはクッキーを食べて小さくなって扉をくぐるはず…。




「アリスは それを食べるけど、」
「君は食べなくていいよ。」
『??』
「君は友達を助けに来たんだろう?」
『…そうだよ。』
「君の友達は今、ここの住民に戻ってしまっている。」
「記憶がないんだよ。」
『記憶がない?』
「そう、元いた世界の記憶が。」
「正確に言うとない、というよりなくした…落としたってこと。」



記憶を落とした…?
落とすようなもんでもないでしょ。記憶って。



「ほら、あれ。」



そう言って、ディーはある扉の下を指差した。


そこには何か、キラッと光る物が落ちていた。


それは十字架の形のネックレス。



『これ……チョタの。』



私はネックレスを拾いあげた。




「それが白うさぎの記憶。」
『へ?』
「それを本人に返せばきっと記憶は戻るよ。」


チョタに…ってことかな?



「そうやって皆に記憶を返していくんだ。」
「そうしたらきっと帰れるよ。」
『そうなの?』
「うん。」





この子達の言うことを私なりに解釈してみると、こう。

みんなこの世界にいる。

でもみんな記憶を落としている。

だから私がその記憶を拾い集めて
みんなに返してあげなくてはいけない。

そうすると帰れる。


……と、まあそういうことだろう。




『これを届ければいいんだね、わかったよ。』
「君、名前は何て言うの?」
『ありすだよ。』



今更、名乗るのってなんだか恥ずかしいな…。



「ありす、君の行きたい所が、君の居場所だよ。」
「ありすの記憶も戻ってしまうかもしれないけど、」
「自分の好きな方へ行くんだよ。」
『??』
「「いってらっしゃい。」」
『いってきます…。色々とありがとう!!』





所々意味が分からなかったけど、
とりあえずやることは分かった。


私はネックレスを握りしめて、扉を開けた。















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