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木曾側はもう既にたったの5騎となっていた。

対する敵の軍はその何十倍という圧倒的な強さ。
もう何が起ころとうと木曾に勝ち目はなかった。


「…巴(ともえ)、お前はもう逃げろ。」


そのわずか五騎のうちの一人は巴。女だった。
美しく、男にも負けないほどの強さを持った
巴は女の身でありながら、討たれずに残っていた。


『いいえ、殿。巴は最期まであなたと共にあるつもりです。 殿をお守りして討死にするが巴の本望です!』


巴は強かった。
だから、木曾も戦を共にすることを許可した。

しかしそうはいっても女は女。

その上、自分の一番大切な人となれば、
この後もう"負け"しかない戦になど
連れて行きたくない、生きて欲しいと
願うのは当たり前のことだろう。


「もう負けは決まっている。俺は討ち死にを覚悟しているんだ。木曾は最後の戦に女を連れていたなどと知られてみろ、大恥だ。だから、行け。」
『…しかしっ!殿っ。』
「俺の最期の願いだ。」


巴は、ハッとした。
その言葉を聞いて、
木曾の本意が痛いほど伝わってきた。

巴を逃がすのは、恥だからではない。
巴に生きろと言っているのだ。


『…分かりました。』


これが最期となれば、
巴には言いたいことが山程あった。

しかし、それが口から出てくることはなかった。

心残りのないように、
木曾の目をじっと見つめる。
きっとこうして向き合うのももう最後。

泪を必死にこらえる。
そんなもので目を曇らせて、
愛する男、木曾の姿が
霞み見えなくなるのは嫌だった。

それに巴は武士の女。
武士が戦で死ねるなんてなんという名誉。
これはむしろ喜ばしいこと。
だから、泣いてはいけない。


『───では。殿、さようなら…っ。』


艶やかな髪をひるがえし、
去っていく最愛の人を、
木曾は何も言わず最後まで、ただ見ていた。








「…よかったのですか。」


今井四郎が問う。


「何がだ?」
「最後に何も言わなくて。」


今井四郎は木曾の乳母子で、
この二人も、巴とはまた違った絆で結ばれていた。


「言わなくても、分かる。」
「…そうでしたね。」






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