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序章


ポツポツと雨が降り注いでいる、中
一人の人物はある建物の、ある一室にいた。

「“なぜ、私は私なのだろうか。”
……この世界には数多の人間が、生き物が生きている。にもかかわらず、
なぜ僕は、僕という存在で何故生きているんだ?」

どこかで聞いたことのあるような言葉をポツリと呟く。
それは今なお議論され続ける、純粋で率直な疑問。
かの有名な哲学者もそれと類似した問いを投げかけている。
その答えは、今まだない。

そして、それは同時に当たり前すぎる疑問だ。
当たり前すぎて気づかない。
当たり前すぎて疑問に思わない。

そんな、皆が皆、必ずしも持つとは限らない疑問をこの人物は持った。
普通ならば気づかずに終わってしまうような疑問を。
そして、その問いの答えを欲した。

ならば、この人物は普通ではないのだろうか。
……第一に普通とは、当たり前とは、一体何なのだろうか。

自分が一体何者か、なんなのか、何故生きているのか。
そんな疑問を持ち続ける人物。
それはきっと、誰にもわからない疑問なのである。
昔も今も、そしてこれからも。


「……きっと人間、生物学上的に女……それだけしか、僕には僕が、わからない……」

きっと、この人物は欲しいのだ。
お前は人間だ。女だ。存在している。
そういった、確実に、信頼できるような絶対的な確証が、生きている意味が。
自分という存在が。


「職業的には監視官……監視官?……監視官って、なんなんだろうね……」

ギシリと、この人物の座っている椅子が鈍い音を立てる。
ゆらりと瞳が遠くを見つめた。

テレビやホロアバターの喋る音はせず、
物音一つしないような静まった空間がこの場を支配する。


“ppp――……”

そんな静寂に一つの音が響いた。


「……どうかしましたか?……はい、わかりました、なるべく急いでいきますね」

はぁ、と一つため息をつき、この人物はやっと重い腰を上げた。


「せっかくの非番だったんだけどなぁ……」

そう愚痴を言いながらも、この人物は手早く出かける準備をしていく。


「よし、それじゃあ、あとはよろしくね」

『いってらっしゃい』

準備が整ったこの人物は、ホロアバターの人工頭脳に声をかけ、ドアをパタリと閉めた。






「新入りちゃんがこんな日に、こんな事件とは……ついてないね」

ザーザーと雨が降り注ぐ中、ポツリとどこか他人事のように呟いた。