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 それから、ひどく残酷だ 

「え…………」

思わず無意識に口から言葉が漏れる。
今だけはひどい頭痛のことを忘れてしまっていた。

それほどに、

「……うそ、でしょう……?」


―――人間の倍、いや何倍もあるような……巨体な不気味な顔を持つ生き物が



「うわぁああぁあ!!」

―――人間を、食らっているなんて。


衝撃だった、なんて言葉では言い表すことのできない光景に呆然とする。

……なんだ、ここは、こんなところで私は、生きていたのか?


骨が砕けるような音、肉がちぎれるような音、逃げ惑う人々の叫び声、悲鳴、怒号、
目の前で飛び散る真っ赤な血飛沫――――
ズシンズシンとまるで地鳴りがするような、音

地面に伏せるようにしている体に直接響くそれにはっと我に返る。
無意識に止まっていた呼吸が再開されてドクドクと心臓が脈打つ、いつの間にか頭痛は収まっていた。


それから焦ってあたりを見渡す、右から左へと視線を移動させるものの、見える光景はそう大差あったものじゃない。
……ただ、今ここが地獄のようになっているということだけだった。



―――どうして私は気付かなかった!
集中していると周りの音が聞こえなくなるとかいうがそんなものじゃない!
考えるべきは今じゃない、ここでもない!
考えることなんて言うのは後からでもできる、
そう、生きてさえいれば!


見誤るな、今、私が何をすべきか、
一番優先する事項は一体なんなのか、


それは今記憶について考えることではない、私が何者か?それよりも大事なことがある!


先ほどまで一人で痛みと絶えていた自分ではないように、勢いよく立ち上がる。
幸いにも私とそのやつらとは距離が離れていたようで、近くにはまだいない。
それを確認して、私はグッと足に力を込めた。


今最優先すべきことは、


―――――自分の命を死守することだ!


そう決めた瞬間弾かれたように走り出す、
後ろから人々の叫び声が聞こえる。悲鳴が聞こえる、助けを乞う声が聞こえる、
聞こえては、途絶えて、聞こえては途絶えて、それが繰り返される。


それでも、振り向いては、いけない。
歯を食いしばって耐えなければならない、

「ふっ、うあぁっ……!!」



これから行きつく先が天国か地獄か知ったもんじゃないが、私は生きなければならない
目をそらして、いっそのこと目を閉じてしまいたい衝動に襲われるが、目を開いて、見なければならない
そして、涙を流そうが、息を切らせようが、苦しくなろうが、なんだろうが、

その足を、歩みを、止めてはいけない――――



生きた報いとして

  end 
(2:2:12)