「それじゃあナマエいってくるね!!」
「うん、いってらっしゃい」
運動部の部活に入っている彼女は先輩に何か聞きに行かなければならないらしい、
そんな彼女……親友を笑顔で送り出す。
すると即座にこっちに向かっている気配がした。
……それは、いつものこと。
「なぁミョウジ!あいつ、何が好きなんだ?!」
「……はいはい……、話題が見つからないんだっけ……?」
そうなんだよー、といいながら彼が机にへたる。
……こんな状態になるのはテスト期間だとか、英語の宿題が終わっていない時、
……それと、『あの子』についての話題だけ。
「何つっぷせとんじゃ、赤也。またミョウジに頼っとるんか?」
「仁王せんぱーい……、だってミョウジってあいつとめっちゃ仲いいじゃないっすかー……何話したらいいかわかんないんスよー……」
フラリと突然音もなく現れたのは一つ年上の、彼の部活の先輩。
といっても先輩と会うのは初めてではなく、顔なじみの先輩でもあったりする。
私は先輩に軽く挨拶をして、彼と先輩のやり取りを聞く。
それは、いつもと同じように先輩によって彼が泣かされる結末をたどる。
……先輩は全部、全部知っているんだ。
「……ほら、帰ってきたみたい。今がチャンスだと思うよ?」
そんなことをしていると、あっという間に時間は過ぎたようで、
ようやく教室に入ってきた親友を見つけて私は彼にそう声をかける。
すると、彼は勢いよく立ち、嬉しそうな表情をしながら親友の方へと走っていった。
「……!おう!!んじゃあサンキュ!!……なぁ、お前ってさぁ……」
「えっ!?ぁ、うん!!そうなの……!!」
一目散にかけて行ったその背中をいつも、見ている。
そう、私が見ているのは『親友のことを考えているときの笑顔』であって、
あんな緊張しているような、それでどことなく嬉しそうで楽しそうな
『好意を向けられている笑顔』では、ない。
そうして私に向けられていないその彼の笑顔に、何度苦しめられればいいのだろう。
「……お前さんも大変じゃのぅ……」
「……はぁ、そうですね……」
“も”?
先輩の言ったことに疑問を持つが、そのことを私はあえて触れなかった。
無意識に言った言葉だったらより一層その人の本心が現れる。
私と先輩はただそれだけの仲で、
それならば、……先輩にだって触れられたくないことはあるだろうから。
「……お呼びみたいじゃな」
「……そうですね、……それじゃあ」
先輩は嬉しそうな顔をしてこっちを見ている私の親友に気付き、
くるりと方向回転して去っていく、彼の長い銀髪の髪がサラリと揺れた。
……私は、いい笑顔でこっちに来ているあの子の話を聞くとしようか。
……全部、全部知っているけど。
「ナマエ!!あのね!さっきね!!」
「……はいはい落ち着いて。それで何があったの?」
「……ふぅ……、っと!あのね!!」
そうして私はまた、本当の私を隠す。
(隠し通すわ、本当の私)これが一番いいんだと知っているから。
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