ふわり、そんな優しい感触。
誰かに頭を撫でられる感触にゆっくり意識が浮上する。
誰だろー、こんな風に優しいってことは跡部とは違うんだろーなー。
なんて考えながら、その優しい手に撫でられる感触に浸る。
一人ポツリと漏らした君に、俺は寝ているフリをつづけた。
……ここで俺が起きちゃダメだと思うから。
せっかく君が漏らした本音を、本当の君を。
また、君は隠して、誰にも見せないようにしちゃうだろうから。
……だめだよ、忘れちゃ。
全部忘れたら今ここにいる君がいなくなっちゃう。
嬉しいことや哀しいこと、嫌だったことに楽しかったこと。
よかったことだけ、なんていうのはできないけれど、
そんな苦しかったことも含めて、
これまでのすべてが君を形作っているんだから。
だから、全部、全部忘れちゃったら、
今までのすべてを苦しみながらも乗り越えてきた君が、
今を精一杯生きている君が。
……俺のことを覚えている君が、
いなくなっちゃう。
忘れたい、って思うこともあると思う。
知りたくなかった、思い出したくないっていことも。
……でも、その忘れたい、ってことも全部、全部含めて、
ナマエだよ。
……君は、俺のことをきれいだ、って言ってたよね。
自分とは大違いだ、って。
でもね、君だってきれいだよ。
そんな風に思いながらも精一杯頑張ってる君だから。
ナマエだから。
なんにもそんなこと思う必要ないから。
だって、こんなにも君の手は、
すごく、優しいんだから。
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