後悔
おかしい。
実におかしい。
調子が悪い。
冷静さを失う。
よくない傾向だ。
今まさに砂に帰ろうとする影こすりを見詰めながら、シンは、ぶんっ……と一度だけ剣を振った。
「なんとか勝ったね、相棒さん」
声をかけられて振り返る。
さらさらと美しく光る流れるような黒髪を揺らして、彼女は小首を傾げた。
「その呼び方はやめろと何度も言ったろう。オレはお前の相棒じゃない」
憮然として言うと、シンは彼女から目を反らした。
「ごめんなさい……」
彼女は消え入るような声で、簡単にシンに謝罪を差し出す。
いつもそうだ。
彼女はいつも、簡単に受け入れる。
理不尽なシンの態度に不平を言うこともない。
静かに受け入れる。
理不尽に彼女に八つ当たりしたあと、それでいつも、シンは強い自己嫌悪に苦しんだ。
「……それと、戦闘中のマギアは禁止だって言わなかったか?」
「だって私も闘いたい。シンが傷つくのをみるのはイヤ」
シンはまた彼女を振り返った。
彼女が戦闘に加わると、調子が狂う。
体が勝手に、彼女を庇うのだ。
彼女の様子が気になって、集中できない事もしばしばある。
弱いものを助けるのは男として、エスパーディアとして……至極、当然のこと。
体が勝手に動くのもいたしかた無い。
だが、どうだ。
先ほどのように、少しでも彼女に敵の爪牙が当たろモノなら、自分の冷静さは、ぷっつりと切れる。
ただただ怒りを持って、敵に刃を向ける。
感情的に。
いや、もう激情と言っても過言ではないだろう。
「……確かに……あんたに助けられることは多いが……」
「ホント?」
シンの言葉に、彼女は素直に喜びの声音を上げた。
嬉しそうな彼女に、まあ、いいかと思う。
いつもそうだった。
「調子に乗るな……」
叱る声もどこか暖かくなる。
戦闘中、彼女がいることが、鬱陶しいことは確かだったが、おそらく、すでにそこに彼女がいなければ、それはそれで落ち着かないのだろう。
シンは後悔してはいない。
『あんたもいっしょに行くか?』
あの日彼女に、そう言ったことを。
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