パージルくんのマギア講座そのいち
「うわー、なんで煙だけなんですかーっ!」
甲高い情けない声を上げて、両手をバタバタと振るのはベス。
先日、初級クラスに上がったばかりのぺーぺーマーゴである。
「落ち着きなさい、ベス」
一方、涼しい顔ながらに、すこーしだけ眉を吊り上げるのはベスの大先輩。
あまりに才能のないベスを師匠に押し付けられたパージルくんその人である。
彼女は、本当に絶望的に才能がなかった。
炎を出すなどというのは至極簡単な初級中の初級である。
もしかしたら、まだマギアの力があると判断されたばかりの子供でもやってのけることができるかもしれない。
難しい疑似魔法などを使うわけではなく、空気中に漂う炎の分子を集める……それだけである。
練ることもなければ、飾り立てるわけでもない。
マギアが使えれば誰でもできる。
……はずなのだ。
「私には煙のほうが難しいように思うんですが」
マーゴにはリュートを操る力がある。
そのリュートと呼ばれる人間の気のようなものを使って、空気中の炎の構成物を集めて形にするのである。
大した知識は要らないし、修行などほとんどなくてもパラブラスを知っていれば最初にできる。
そして、炎というものを見た事があれば。
「あなたはもしかして、炎というものを見た事がないんですか、ベス」
「いえ、その、いくらなんでも火を見ないで生活するなんて無理ですよね、パージル先輩」
彼女の言う通りである。
だから火のマギアはマーゴならほとんど誰にでもで使えるのだ。
一方、形の定まらないものはなかなかマギアで出すことはできない。
煙は炎から生まれるので、パラブラスは同じだ。
小さな炎も大きな火柱も同じ。
後はマギアを使う者のリュ−トの使い方と、知識でのコントロールである。
「では、それを頭に浮かべれば良いんですよ」
「さっきからやってますっ!」
半ば号泣に近い顔でベスが叫んだ。
瞬間……
パージルとベスの間に激しい火柱が上がった。
咄嗟にパージルは水のマギアを使った。
火柱は簡単に消えた。
「できたじゃないですか。すこーし派手でしたけど」
「え?え?」
一番驚いているのはベスのようだった。
「貴女には精神の修行が必要なようですねえ」
ちょっとだけ焦げた前髪の毛先を弄びながら、パージルは言った。
突然のことにびっくりして防御が間に合わなかった自分自身を誤摩化すように。
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