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ラクティの目には、シンはいつもそう映っていた。
皆はシンのことを自身満々で傲慢で野心いっぱいのエスパーディアのように言うが、ラクティにはどうもそうとは思えない。
いつでも迷子のように何かにおびえ、不安そうにしている。
群れから離れてしまったラウーの子のように落ち着きなく、人の顔色を伺っている。
その不安を自分の腹に飲み込んで、無理に飄々と、泳ぐように暮らしている。
シンがあまりしゃべらないのは、不安だからだ。
シンの言葉がゆっくりとして落ち着いて聞こえるのは、彼が人を気にして言葉を選び、考えた上でしゃべっているからだ。
少なくとも、ラクティはそう理解していた。
そんなシンを、ラクティは友人の誰よりも気にかけていたし、心配もしていた。
だが、気を使うシンの気持ちをおもんばかって、今まで態度に出したことはない。
「だけど、このご時世だ。一人で旅っつっても楽じゃないだろう。街の外には<黒髪の使者>どもがうじゃうじゃしてるしさ」
シンは憂いを含んだその顔に小さな笑顔を浮かべた。
「そうだな」
ラクティはため息をついて、腕を組んだ。
目の前の我が友人は、人々が奇跡のエスパーディアと呼ぶ存在でありながら、その自覚がまったくない。
実際、シンの腕にかかれば、この辺りをウロつく黒髪の使者など、簡単に消し飛ばしてしまうだろう。
マギアの加護などなくてもだ。
それなのに、彼はラクティの一言で旅に出る決意さえも、簡単に萎ませる。
目の前で、その視線を泳がせる気の弱い友人に声をかけようとラクティが腕を組み直したその時、草を踏む音が聞こえた。
「セトさまの許可がとれましたよ、ラクティ」
言いながら、背の高い、スラリと細長い印象の男が二人に近づいてきた。
理知的な瞳に少し悪戯な光をたたえて、その男はラクティの隣に立った。
「さすが!優等生パージル!」
ラクティはパージルの肩を軽く二三度叩いて、シンに向き直った。
「安心しろ、シン。お前のマーゴは絶対見つかる。オレさまと、その相棒パージルがついてるんだからな」
「え?」
ラクティの言葉の真意が掴めないのか、シンはラクティの瞳を真っ直ぐに見た。
それから、パージルに視線を向ける。
柔らかな笑顔で、パージルは答えるように首を傾けた。
「とりあえず、我々は黄金の騎士団の各支部を渡って支部のお手伝いをします」
パージルの言葉に、シンの瞳に強い光が宿った。
「オレは……騎士団に入れるのか?」
「特別措置ですよ、シン。あなたはどのエスパーディアより力はありますから」
その通りと、ラクティも深く頷いた。
「まあ、セトさまが相当ご無理なさったことは、間違いないでしょうがね。あなたのために」
「セトさまが……」
対岸に見えるパルスの街に視線を向けて、シンは呟いた。
こうして、三人は旅立つことになった。
まだ見ぬシンのマーゴを探すために。
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