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 パルソナスの首都、パルスの街は相変わらず美しい。
 パルスを囲う堀の対岸に座って、シンは街を眺めていた。
 シンが育った街だ。
 黄金の都という異名に違わず、美しい。
 人々が笑い、集い、生活するパルスの町中も嫌いではなかったが、あそこにはシンの安寧はない。
 人の手があまり入っていない町外れがシンは大好きだった。
 普通の青年がするように青臭い草の上に寝転がって、昨日の訓練の厳しさに愚痴を言ったり、疲れたとぼやいたりする。
 普通の青年と違うのは、シンの隣にはいつも誰もいなかったということだった。
 街の人々は、シンの強さを讃えていたし、期待もしていた。
 エスパーディアの仲間もそうだろう。
 けれども……
 エスパーディアの全てが武道による精神の向上に成功しているわけではない。
 エスパーディアの中にも僻みや妬みに負けるものも多くいる。
 シンは彼らのその歪んだ気持ちがどうしても許せなかった。
 そして、許せない自分もまた歪んでいると考えていた。
 マーゴがいないということは一人前のエスパーディアではないということだ。
 だが、シンは剣技で他のどんなエスパーディア修行者にも負けたことがない。
 マーゴなしで、マーゴのいるエスパーディアにも負ける気がしなかった。
 そう考える自分もまた歪んでいる。
 理由ははっきりしていた。
 手を取り合い、助け合う仲間。
 誰しも認める永遠の相棒、マーゴ。
 シンにはそれがいない。
 そしてそのエスパーディアとしての素晴らしい技が、普通の青年として得るべき仲間からも遠ざけていた。
 シンは孤独だった。
 心を許せる友は数少ない。
 シンは両親の顔も知らない。
 <黒髪の使者>に襲われた街から、セトが救い出した。
 それ以上のことは、今まで一度も聞かなかった。
 シンにはセトが親代わりだった。
 だが、成人してからは、ずっとエスパーディアの師弟としてその間に線を引いて来た。
 両親がいて、マーゴがいて、そんなエスパーディアを時々うらやましいと思うことがあった。
 これでは自分のことを口汚くののしるやつらと変わりない。
「歪んでる……」
 シンは小さく呟いて、頭を垂れた。
「旅に出るって?」
 思いを巡らせるシンに突然声をかけるものがあった。
「ラクティ……」
 振り返ると、そこには見慣れた茶色い髪の、人の良さそうな笑顔があった。
 シンは知らず、ほっと肩の力を抜いた。
 シンが心許せる数少ない友人のひとり……ラクティは子犬のような笑顔で誰からも好かれる存在だった。
 その笑顔は分け隔てなく誰にでも与えられ、もちろん、みんなの輪からはみ出しがちのシンもその例外ではなかった。
 厭味の無い茶色い髪、どんなものも受け入れそうな緑色の瞳。
 草の上に腰をおろしていたシンはラクティと目線を合わせるように立ち上がった。
 ラクティは自分の質問に対する答えを促すように、黙って頭を傾けた。
「……特別、何かアテがあるわけじゃないんだ。ただ、ここにいてもオレのマーゴは現れない気がする」
 瞳を伏せて、自身なさそうにシンは言った。


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