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「何をしてるんだ?」
テントの群れから少し離れた草はらで、草を食む馬の背を撫でていたシンにマールはそっと声をかけた。
まずは休めということで、一行はしばらくラクシュールで過ごすことになった。
ホーク・アイの好意で、ラク族以外の者でも割と過ごし易いテントをいくつかあてがってもらった。
ラクシュールは珍しいものだらけで、草っぱらを延々歩き続ける苦行をこなして来た一行には、とても魅力的だった。
はしゃぐラクティやパージルを他所に、シンは一人で離れた場所で何か考えごとをしていた。
「いや……」
声をかけたマールをちらりと見て、短く言って、俯く。
「お前、どうせ、オレはお前のマーゴじゃないとか思って落ち込んでんだろ」
「落ち込んではいない」
「その顔で言われても説得力ねえな」
マールはひとつため息をついた。
「最初に言っただろ。オレがお前のマーゴかどうかなんてオレには全く関係ない。お前のホントのマーゴが現れるまではオレがお前の面倒みてやるよ」
マールの言葉に、少し考えてから、シンは顔を上げた。
「なあ、マール。ルナのこと……どう思う?」
「どうって?」
「もし、オレがあいつと融合したら、それはどういうことだろう」
真剣な顔のシンをみつめ、それからマールは少し考えて、首を軽く横に何度か振ってみせた。
「本当にお前は心配症だな。そんなんなってしまわないと解んねえし、黒髪だろうがなんだろうが、お前の手助けになるならオレは構わねえけどな」
マールは本気でそう思っているだろう。
自ら『規格外』と自分を称するような男だ。
しかし、マールがシンのことを本気で大切な友だと思っていることは、さしものあまり人を信じないシンでさえも、はっきりと肯定できる。
だが、残念なことに、シンはエスパーディアであった。
しかも、置かれた立場から、誰よりも真面目で、誰よりも規律正しいエスパーディアだった。
規格外の者達に囲まれ、想定外の出来事にさんざん出会っても、すぐには自分を曲げられない。
「そうだな」
得心のいかぬまま、シンは頷いた。
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