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風のようだと思った。
マールのように飄々と流れるように吹く風ではなく、一陣の疾風である。
「パルスから来たのか?」
その風は馬上から問うた。
「あんたは?」
答える前に、シンは問い返した。
当然の質問だとでもいうように、馬上の男は涼しい顔で頷くと軽い身のこなしで馬から降り、まっすぐにシンの前に立った。
それから顔の半分を隠していたストールを人差し指でくいと下にずらす。
彫刻のような端正な顔がはっきりと見えた。
笑えばさぞ女に喜ばれるだろうが、その男は難しい顔を崩さなかった。
「ラク族のイシュタール」
一行はお互いの顔を見合わせた。
「ラッキーだな。あんたたちを探しに来たんだ」
いつものように腰に手を当て、斜に構えるとシンは言った。
男は難しそうな顔を崩さず大きく頷いた。
「知っている」
「知ってる?」
思わぬ返事に、シンは目を見開いてオウム返しに訊ねた。
ここで男ははじめて、表情を崩し、薄く笑った。
想像通り、欲深い女どもが腰を抜かすような美しい笑顔だった。
「お前たちがパルスから来たのならラク族に会いに来たはずだからな」
馬の鼻面を撫でながら、男は軽く頷いた。
男が態度を緩めたので、多少緊張気味であった一行の空気も緩んだ。
「オレたちを迎えに来たのか?」
またシンは訊ねた。
その質問に、先ほどの、パルスから来たのかという質問の答えも含まれていることを鋭く察知して、男は頷いた。
「そうだ」
「何故来ると解った?」
シンは驚いて思わず訊ねた。
「星が落ちた」
「え?」
男の短い答えは、余計シンたちを混乱させた。
「星が落ちたら、パルシェルファからの使いが来る。黒髪を倒すためにな」
男はさも当然というように答えると、馬の手綱を握り、先ほど駆けて来た方角にくるりと体を向け、首だけを返してまた薄く笑った。
「詳しいことは大婆さまに聞け。実際オレもよくは解らん」
男は歩きだした。
疑問はたくさんあったが、今はこの男について行くしかないようだ。
一行は観念して男の後を追いかけた。
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