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「もう、歩けねえ!」
マールはだだっ子のようにその場に座り込み、足を投げ出した。
さくり……と、心地の良い草の音がする。
どこまでいっても緑色だ。
草原に入ってから半日近く歩いたが、集落らしいものは影も形もない。
少し前を歩いていたシンは立ち止まると一度ため息をついてそれから振り返った。
「さっき休んだばかりだろ」
黒髪の使者とエンカウントでもすれば、飽きることもないのだろうが、少なくともこの緑色の絨毯の上を歩きはじめたと認識してからは、平和に一行の歩みが進んでいた。
本来なら喜ばしいことだが、若いこの一行は退屈していた。
たった一人、風を楽しみ、草を踏む事を楽しんでいる少女を除いては……
その少女は、子供のように足を投出して駄々をこねるマールを見て、くすくすと小さく笑った。
「何笑ってんだよ、ルナ」
「だって、マールは楽しくないの?」
「楽しい?」
訊ねたのはラクティだった。
彼もまた、この道中に退屈しているらしい。
「私は楽しいわ。こんなに顔に風が当ったのは、はじめて!こんなに草の上を歩いたのも、はじめて!」
踊るようにくるくるとルナは草を鳴らして回ってみせた。
草原に咲いた一輪の花のように。
風が彼女の黒髪を揺らし、その黒髪が光を含んでキラキラと光った。
彼女を見ていると、今まで黒髪に対して感じていた恐怖が薄れて行く。
無邪気な彼女の姿に目を細め、シンは不安定に回る彼女を支えようと足を踏み出した。
その時だった。
彼女の動きがぴたりと止まり、その黒瞳が草原の遥か彼方を見つめた。
「どうした?」
「あれ、何?」
ルナの指差すほうに視線を向けると、先ほどまでくっきりと空との別れ目を示していた地平線の一部がぼんやりと乱れていた。
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