12
かつてセトはこれほどまでに熱い瞳で自分に対峙するシンを見た事は一度もなかった。
見慣れた部屋の中で見慣れた人物を見ているにも関わらず、セトは初めてみる光景を見るように、我が息子を眺めていた。
出て行く時より、その黄金色の髪はさらに明るく光り輝いているように見えた。
幼い時から、彼が何か欲しがることは極端に少なかった。
マーゴが現れないということに気づくずっと以前から、シンは感情を表に出すのが下手だった。
だが、目の前にいるシンは、熱い瞳で、セトに自分の要求をぶつけている。
「セトさまの知る全てのことを教えてください。ルナのこと、マギアのこと。マールのこと。なんでもいい。セトさまがオレに言ってないこと全部」
セトは、シンの隣に立つ緑色の髪を持つ生意気そうな青年と、遠慮がちに俯く黒髪の少女をチラリと見て、それから小さなため息をついた。
この二人が少なからず、シンを変えたのであろうということは容易に想像できた。
そして、セトは二人とも知っていた。
「ヴィッシュから相談を受けた時……」
セトは我が自慢の息子に激しく乞われたことがないゆえに、その要求をつっぱねる方法を知らず、その口を重そうに開く。
「わしの心の中にも小さな期待は湧いた。マールのことは騎士団の中でも有名な話だよ。お前の次にな」
「では、セトさまはマールの存在を知っていたんですね」
「そうだな。もちろん、お前のマーゴなのかもしれぬという思いも全くなかったというたらウソになるな。だがな、シン。これは解ってくれ。わしの大事な息子のマーゴが、修行を途中で投げ出すような人間であることなど、あってはならぬという思いも強かったのだよ」
シンは一度その長い睫毛を伏せ、それから何か決意を固めるように真っ直ぐにセトに向き直った。
「解ります」
「ヒトガタの報告を受けた時、騎士団にマールをお前たちに預けるように頼んだのは、実は、わしだ。出会った限りは確かめねばならん。わしはお前の苦労も、ごく身近に見てきたからな」
セトはその皺だらけの顔に、苦笑いを浮かべた。
空気が震えた。
どんなに不利な時でも、迷いなく剣をふるってきた強者が、ひどく思い悩んでいたのだ。
そこには、自分の息子の成長と幸福を切に願う、一人の父親の姿があった。
「お前がしっかりと立つためには、必要なことだと思う。マールよ。まだ、お前がシンのマーゴだと決まったわけではないが、我々はその可能性を強く否定できん。いずれにせよ、我が息子をよろしく頼む」
優しい瞳で言った後、セトはその周囲の空気を急に重くした。
重厚で凛として固い。
エスパーディアの発する気だった。
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