11
パルスの街を囲む城壁の門をくぐった時、ルナは思わず息を飲んだ。
立ち止まる。
頭巾の中にその黒髪といっしょにおさまっている髪飾りに触れた。
指先で、そのカタチを布越しに確かめる。
「怖いか?」
シンが振り返った。
珍しく優しい瞳で問いかける。
それだけで、ルナはひどく安心した。
「だいじょうぶ。たぶん」
「まあ、オレさまがついてるから大丈夫だって」
マールが元気よく笑う。
シンは彼を一瞥して腰に手を当て、ため息をついた。
「お前だって緊張してるくせに」
「ば!オレのはあれだ。田舎者が都会に緊張してんのと同じだ!」
「それは自慢なのですか、マール」
「余計、かっこ悪いぜ、マール」
ラクティが大声で笑った。
それにつられて、パージルもくすくすと笑う。
「セトさまに挨拶したら、ラクティの家でお食事をいただきましょう」
珍しく雄弁なパージルが提案する。
マールはパンっと手を打った。
「いいね、それ」
「ラクティのお母様は最高に料理が上手なんですよ」
「なんでお前が決めるんだよ」
ラクティがパージルの肩を叩く。
ルナは心がすうっと楽になった気がした。
「私、だいじょうぶだよ。みんながいるし」
みんなを安心させるために頷いてみせたルナの顔の横を、剣を抜く時の早さでシンの腕が通りすぎ、彼女が被っていた頭巾を脱がせた。
「え?」
ルナはひどく驚いて、シンの顔をみた。
「ここは大丈夫だ。オレたちといる限り心配ない。口汚く罵るヤツはいるかもな。でも、そんなの気にしなきゃいい」
一番驚いたのは、恐らく、ラクティとパージルに違いなかった。
少なくとも旅に出る前、誰よりも、人の目を気にしていたはシンだった。
ここに辿り着くまでも、ルナの黒髪を人の目につかないように細心の注意を払っていたのもシンだった。
「うん」
ルナは素直に頷いた。
シンを追って歩き出したルナの流れる髪を見つめて、マールは息を飲んだ。
「どうしました?マール」
「いや、最初に見た時もキレイだなと思ったんだ。でも、改めて、ルナの黒髪ってキレイだなと思って……ヤバいかな」
マールの言葉に、瞳を伏せてパージルは首を横に振った。
「私もですよ、マール」
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