9
「どうした?」
目覚めると、黄金色の髪と深い緑色の目が覗き込んでいた。
「ルナ?」
応えないルナを訝しんで、名前を呼ぶ。
ルナはほうっと短い息を吐いた。
「シン……」
そうだ。
自分の名前はルナ。
ルナディア=クローディル。
「私……」
ベッドの上で体を起こし、ルナは真っ直ぐシンを見て、状況を把握しようとした。
シンは目を細め、ため息をつくと、ベッドから離れ、カーテンを開けた。
明るい、陽の光が部屋を染める。
「あの後、倒れたんだ。まる一日目を覚まさなかった。さすがのオレも不安になったな」
「えっと……」
ルナは何から訊いたら良いのかさえ解らなかった。
「ここはマスパレスの宿だ。ジャネス=アミルとの戦闘中、あんたが倒れた。で、ここに運んだ。把握したか?」
「うん」
ルナは頷いた。
間を置いて、シンがゆっくり振り返った。
「どこまで覚えてる?」
「ええっと。黒髪の使者がいっぱい現れて、教会からみんなを避難させて。戻ってみたら真っ黒い髪の男とシンが闘っていて……あ……」
そこまで言って、ルナは言葉を切った。
『闇王さまのところに参りましょう』
男の言葉が鮮明に蘇る。
そして、あの瞬間、感じた恐怖と。
思わず俯く。
「ルナ」
ややあって、声をかけられてもう一度顔を上げた。
扉のところまで来て、シンがルナを見ていた。
「もう少し休んでろ。オレたちは隣にいる。何かあったらいつでも呼べ。それと……」
続く言葉の変わりにシンは、ルナに何かを投げて寄越した。
ルナは慌ててそれを両手で受け止めた。
「何?」
「身につけておけ。その石は状態異常のマギアをシールドするらしい」
ルナは手の中の物を見た。
それは、ルナが街の露店で見つけた髪飾り。
「え?」
顔を上げると、扉からシンが出ていこうというところだった。
シンは一度立ち止まって、背中越しに言った。
「必要ないなら捨てろ」
「あ!ありがとう!シン」
ルナはそれを強く握りしめた。
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