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夢を見た。
恐ろしく現実的で、恐ろしく身近だった。
けれども、ルナはそのような体験をしたことなどなかったし、夢の中の登場人物には一度も出会ったことがなかった。
夢の間中、ルナの隣に居たのは、真っ直ぐな長い黒髪を持つ黒い瞳の美しい男だった。
彼はいつもあらゆるモノにひれ伏されていた。
彼の隣にいると、自分が皆より一歩高い位置にいると錯覚する。
彼の前に現れる全てのモノが、彼に平身低頭し、跪き、卑屈であった。
時折、黒く長いマントを翻し、怖いものなど、何もないといった態度でルナを見る。
彼は笑いながら、始終、誰かを殺す話をしていた。
そして、『母』と呼ぶものの話をしていた。
それは、ルナの知る『母』の印象とは明らかに違っていた。
彼は二人の時は、常に『母』のことを話していた。
目覚めさせるだとか、救い出すだとか、そのような話しだった。
ダメだ。
何故だか、ルナは強くそう思った。
彼に『母』を起こさせてはダメだ。
それなのに、夢の中のルナは彼を肯定している。
真っ黒な男がゆっくりとルナを振り返る。
長い睫毛を瞬かせ、口元をゆっくり歪める。
「どうした?ナルトーチカ?」
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