8

 夢を見た。
 恐ろしく現実的で、恐ろしく身近だった。
 けれども、ルナはそのような体験をしたことなどなかったし、夢の中の登場人物には一度も出会ったことがなかった。
 夢の間中、ルナの隣に居たのは、真っ直ぐな長い黒髪を持つ黒い瞳の美しい男だった。
 彼はいつもあらゆるモノにひれ伏されていた。
 彼の隣にいると、自分が皆より一歩高い位置にいると錯覚する。
 彼の前に現れる全てのモノが、彼に平身低頭し、跪き、卑屈であった。
 時折、黒く長いマントを翻し、怖いものなど、何もないといった態度でルナを見る。
 彼は笑いながら、始終、誰かを殺す話をしていた。
 そして、『母』と呼ぶものの話をしていた。
 それは、ルナの知る『母』の印象とは明らかに違っていた。
 彼は二人の時は、常に『母』のことを話していた。
 目覚めさせるだとか、救い出すだとか、そのような話しだった。
 
 ダメだ。

 何故だか、ルナは強くそう思った。
 
 彼に『母』を起こさせてはダメだ。

 それなのに、夢の中のルナは彼を肯定している。
 
 真っ黒な男がゆっくりとルナを振り返る。
 長い睫毛を瞬かせ、口元をゆっくり歪める。

「どうした?ナルトーチカ?」



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