6

「待ってたのか?」

 思わずシンがそう言ったのも頷ける。
 根拠はあったにせよ、それでも絶対だと言える材料は何もなかった。

「待っていたのはそちらのほうでしょう?」

 気味の悪い……人とも獣ともつかないようなモノどもを従えて、ジャネス=アミルはシンたちの前に立った。
 いや、立ちはだかったのはどちらかというとそれは判然としない。
 ジャネス=アミルにしてみれば、シンたちこそが立ちはだかったのかもしれないのだ。

「そろそろ、誰を探しているか教えてくれてもいいんじゃないか?」

 言いながらシンはゆっくりと剣を抜いた。
 ラクティもそれに倣う。
 よりにもよって、ジャネス=アミルが現れたのは教会の中だった。
 マールとルナが、教会に居た人々を外に誘導した。
 一時、騒然とした教会も、シンたちを残し、また静寂を取り戻していた。
 気持ちが悪いほど静かだった。
 時々、ぐるぐるとジャネス=アミルに付き従う異形たちの、小さく唸る声だけが響く。

「解っていて来たのではないのですか?」

「なんでそんなことオレに解る?」

「貴方は黄金色の髪を持った『奇跡のエスパーディア』ではないですか」

 一瞬、シンの瞳が燃えた。

「そんなのはどこかの誰かが知らないうちに付けた通り名だ」

 言って剣の柄を肩まで持ち上げ、その切っ先をジャネス=アミルに向ける。

「そんな呼び方、オレは全く……興味がない!」

 シンの剣筋は、ジャネス=アミルを守るように囲む異形たちは意に介さず、まっすぐにジャネス=アミルに飛んだ。
 見た事もないようなスピードで、シンが間合いに飛び込んだのだ。
 本能的に反応した異形たちを、ラクティの剣が斬りつける。
 すでにラクティの剣は、パージルによって青白く輝き、低く唸っていた。
 
「危ないことをしますねえ」

 ジャネス=アミルの首を飛ばしたはずのシンの剣は、ジャネス=アミルの顔のすぐ傍で止まっていた。
 その剣が当っているのは、薄刃の細剣だった。

「お前、剣技も使えるのか?」

 顔を見合わせたままでシンが訊ねる。
 ジャネスア=アミルは小さく笑った。

「私は、独りですので」

 静かな語り口には似合わない馬鹿力で、ジャネス=アミルはシンをはじき飛ばした。

 咄嗟にシンはジャネス=アミルの間合いから後ろ飛びに退く。

「私はね、最後の仕上げをする人を探しているんですよ」

「仕上げ?」

「あの人が目覚めるには、ナルトーチカ様の声が必要なんです」

「ナルトーチカ=ルイルを探しているのか?生きているわけないだろう。100年前の話だぞ!」

 ジャネス=アミルは鼻で笑った。

「彼女を何だと思ってるんですか?偉大なる闇王と融合したマーゴですよ?」

「寝言は寝てから言え!」

 再び、シンが間合いに入る。
 異形のモノたちの怒号と、爪と牙。

「ダメだ!シン!数が多すぎる!」

 今、まさに、ラクティの剣から寸でで逃れた異形が、シンに飛びかかろうとした。

 瞬間……

 その異形の動きが止まった。
 瞳を大きく開け、何かに怯えるように、ぶるぶると体を振るわせる。
 そして、どう……と不気味な音をたてて床に落ちた。

 ラクティたちに襲いかかっていた異形たちも、半狂乱で我先にと、ジャネス=アミルの後ろに隠れようとする。

 そのジャネス=アミルも、ある一点を見つめて、瞳を見開いた。
 
 シンは、ジャネス=アミルの視線を追った。
 その先には、美しい黒髪。

「シン!」

「ルナ!」

 教会に居た人たちを安全な場所へと誘導していた二人が、教会の扉を開けたところだった。



[ 28/45 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -