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「待ってたのか?」
思わずシンがそう言ったのも頷ける。
根拠はあったにせよ、それでも絶対だと言える材料は何もなかった。
「待っていたのはそちらのほうでしょう?」
気味の悪い……人とも獣ともつかないようなモノどもを従えて、ジャネス=アミルはシンたちの前に立った。
いや、立ちはだかったのはどちらかというとそれは判然としない。
ジャネス=アミルにしてみれば、シンたちこそが立ちはだかったのかもしれないのだ。
「そろそろ、誰を探しているか教えてくれてもいいんじゃないか?」
言いながらシンはゆっくりと剣を抜いた。
ラクティもそれに倣う。
よりにもよって、ジャネス=アミルが現れたのは教会の中だった。
マールとルナが、教会に居た人々を外に誘導した。
一時、騒然とした教会も、シンたちを残し、また静寂を取り戻していた。
気持ちが悪いほど静かだった。
時々、ぐるぐるとジャネス=アミルに付き従う異形たちの、小さく唸る声だけが響く。
「解っていて来たのではないのですか?」
「なんでそんなことオレに解る?」
「貴方は黄金色の髪を持った『奇跡のエスパーディア』ではないですか」
一瞬、シンの瞳が燃えた。
「そんなのはどこかの誰かが知らないうちに付けた通り名だ」
言って剣の柄を肩まで持ち上げ、その切っ先をジャネス=アミルに向ける。
「そんな呼び方、オレは全く……興味がない!」
シンの剣筋は、ジャネス=アミルを守るように囲む異形たちは意に介さず、まっすぐにジャネス=アミルに飛んだ。
見た事もないようなスピードで、シンが間合いに飛び込んだのだ。
本能的に反応した異形たちを、ラクティの剣が斬りつける。
すでにラクティの剣は、パージルによって青白く輝き、低く唸っていた。
「危ないことをしますねえ」
ジャネス=アミルの首を飛ばしたはずのシンの剣は、ジャネス=アミルの顔のすぐ傍で止まっていた。
その剣が当っているのは、薄刃の細剣だった。
「お前、剣技も使えるのか?」
顔を見合わせたままでシンが訊ねる。
ジャネスア=アミルは小さく笑った。
「私は、独りですので」
静かな語り口には似合わない馬鹿力で、ジャネス=アミルはシンをはじき飛ばした。
咄嗟にシンはジャネス=アミルの間合いから後ろ飛びに退く。
「私はね、最後の仕上げをする人を探しているんですよ」
「仕上げ?」
「あの人が目覚めるには、ナルトーチカ様の声が必要なんです」
「ナルトーチカ=ルイルを探しているのか?生きているわけないだろう。100年前の話だぞ!」
ジャネス=アミルは鼻で笑った。
「彼女を何だと思ってるんですか?偉大なる闇王と融合したマーゴですよ?」
「寝言は寝てから言え!」
再び、シンが間合いに入る。
異形のモノたちの怒号と、爪と牙。
「ダメだ!シン!数が多すぎる!」
今、まさに、ラクティの剣から寸でで逃れた異形が、シンに飛びかかろうとした。
瞬間……
その異形の動きが止まった。
瞳を大きく開け、何かに怯えるように、ぶるぶると体を振るわせる。
そして、どう……と不気味な音をたてて床に落ちた。
ラクティたちに襲いかかっていた異形たちも、半狂乱で我先にと、ジャネス=アミルの後ろに隠れようとする。
そのジャネス=アミルも、ある一点を見つめて、瞳を見開いた。
シンは、ジャネス=アミルの視線を追った。
その先には、美しい黒髪。
「シン!」
「ルナ!」
教会に居た人たちを安全な場所へと誘導していた二人が、教会の扉を開けたところだった。
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