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 不快だ。
 実に気に入らない。
 そこにあるはずのない腕を動かして、男は身じろぎしようとした。
 とにかく、早々にこの不快感から逃れたかった。
 暖かい。
 そして、ふんわりと柔らかい。
 労り。
 希望。
 安らぎ。
 そこは、男にとっては禍々しいもので満たされていた。
 時々、彼の傍らを通り過ぎる曇ったものに、男は端から触れた。
 触れるたび、少しずつ、感覚が蘇ってくるのが解った。
 はっきりとしなかった意識も、今ではかなりしっかりとしている。
『リュートの中がこれほど不快だとはな』
 男はどうやらすでにここがどこであるかも認識しているようだった。
『さて、あの男はうまくやっているかな?』
 男は自分が触れたものが、リュートから出た時、何になっているかも認識していた。
 地上にはどれほどの下僕が自分の目覚めを待っているのだろう。
 以前、意識が戻った時、男は自分の肉体がどこにあるのかを探ってみた。
 やっと見つけたと思ったちょうどその時、何かが触れる感覚があった。
 これは便利だと思い、彼はその何かと交信を試みた。
 見事に成功した。
 おかげで、リュートの中にいる間、地上のほうも準備をすることができる。
 さて、黄金王はその後どうなっただろうか。
 残念ながら、ここにいる間に、ヤツに出会うことはなかった。
 もっとも、あの能天気な黄金色の阿呆は、素直にこの不快なものの中に、その他大勢とともに、喜んで混じりあっているだろう。
 男は自嘲気味に笑った。
 その阿呆にしてやられた。
 次は失敗しない。
 ふと、腕に何かが触れるのを感じた。
 男は腕と思われるモノをゆっくりと持ち上げてみた。
 そこに腕があった。
『もうすぐだな』
 今度はとても嬉しそうに、男は微笑んだ。
 一瞬、体がヒヤリとして、また男は笑った。
 


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