6

「誰かが防御のマギアを貼っていたんですかね?」
 腕を組んでパージルが首を捻った。
 腕を組むという行為が何故か彼にはとても似合わない。
「この教会の敷地全部にって、そりゃ、かなり強力だぜ」
 わざとらしく目を丸くして、マールが言う。
「ルナじゃなければ誰かがこの教会に手を出せないようにしてたってことだろ?」
 ラクティがうんうんと頷いた。
「いくらパルシェルファの加護があるっつったてさ、あの状況で無傷ってのもなあ」
 言いながら、ラクティはシンに同意を求める。
 シンが動けるようになった頃、マールはラクティたちを連れて戻ってきた。
 騎士団の支部は後処理に追われて右往左往しているようだ。
 それとなく指示は仰いでみたが、明確なものは返ってこなかったようである。
 揃ったところで誰からともなく、何故、この教会がまるで何事もなかったかのように<黒髪>の爪牙にかからなかったのかを考えはじめたというわけだ。
 最初、ルナは自分が疑われるのではと思って心落ち着かなかったのだが、彼らは自分を疑うような言葉を一言も発しない。
 彼らが自分を疑わなければ疑わないほど、ルナは不安になった。
「ねえ、どうしてあなたたちは私の黒髪のことを聞かないの?」
 思わず訊ねると、三人の言葉と動きが同時にぴたりと止まり、ゆっくりとルナを見た。
 それから、全員が優しい瞳になった。
「オレたちをなめんなよ」
「私たちには解るんです。あなたのリュートは危険ではない」
 説明を聞いても、ルナにはまだ信じられなかった。
「今まで出会った人はみんな私を危険だって言ったわ」
「そりゃ、パラブラスを唱えずにマギアを使えるヤツはみんな怖いさ」
「そうじゃなくて!」
 そこまで言って、ルナは俯いて声を小さくした。
「黒髪だから……」
 ややあって、かかか……とマールが嘲笑した。
「そんなの関係あるかよ。少なくともルナはジャネス=アミルみたいにイヤなこと言わないしな」
 全員が頷く。
 突然、思い立ったようにシンがその片手を上げた。
「そのジャネス=アミルの人探しを手伝ってやるか?」
「それがあいつが何をしたいのかっていうのに近づくには一番早いかもな」
 ラクティが同意する。
 では、さて、何かヒントをと考えはじめるとさっぱり解らなくなった。
「アドメントに、ルニエ。共通点はないのかよ」
 ラクティの言葉を合図に、みんなが熱い視線をシンに送る。
 一人一人の瞳を見返して、シンは短いため息をついた。
「……お前たち、なんでこういう時だけオレを頼る?」
「あなたより優れた観察力を持ってないからでしょう?」
 代表してパージルが即答した。
 シンは呆れたように首を横に振った。 
「さすがにこの情報量じゃあ、オレにも解らん」
 シンの応えにみなが肩を落としかけた瞬間……
「まあ、唯一そうじゃないかなってのはある」
 言ってシンは不適に笑った。
「なんだよ、もったいぶるなよ」
 マールがシンの前で地団駄を踏んでみせた。
「アドメントの教会も、ルニエの教会も、100年前、戦争が終わった直後に建てられてる。アドメントはユミエルの、ルニエはフェルスのお膝元だ。100年前の戦争に直接関わってる二人のな」
 そこまで言って一息つくと、シンはその瞳を輝かせた。
「それと、オレはこの件に関して、ひとつ確信してることがあるんだ」
「なんだよ、そりゃ」
「次に、ジャネス=アミルが現れるとしたら、パルス周辺だ」
 一瞬、その場が静まり返った。
 そして、その後、ぶんぶんとマールが首を振る。
「いやいや、いくらあいつがアホでも。あそこにゃ、騎士団の本拠地があるんだぜ」
「マール。よく聞いて。シンはパルス周辺って言ったのよ。パルスじゃないわ」
 この少女からこれほど力強い声が出るのかというほどの確信を持った声音でルナが言い切った。
 同時に全員が驚いたようにルナを見たので、ルナは急に萎みながら、助けを求めるようにシンに視線を向けた。
「えっと……でしょ?」
「そうだ」
 呆れたように首を振りながらシンは応えた。
「オレの予想じゃ、マスパレス辺りだな。あそこには女神イデアを奉る教会がある。ミルチアデスを裏切ってパルシェルファについたマーゴだ」
「こんなことなら、もうちょっと歴史の勉強しとくんだったな」
 そう、説明されても、マールには理解できないようだった。
 さて、ではマスパレスに向かうかと話がまとまりかけた時、不安そうにこちらを伺う少女に、シンは声をかけた。
「あんたも行くか?」
「シン!」
 全員が彼の言葉に驚いた。
 その全員の言葉を無視して、シンは続けた。
「自分の運命は自分で決めろ。その手助けくらいオレたちがしてやる」
 誰に確認をとったわけでもないのに、シンの言葉は自信に満ちていた。
「いっしょに来るか?」
 もう一度聞く。
 ほんの数秒迷って、ルナは大きく頷いた。
「行く!」


[ 22/45 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -