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目を開けると、まず真っ白な天井が見えた。
最初はぼんやりとして、それからしばらくしてからそれが石造りの天井だと解った。
――白いな。
シンはただ、そう思った。
「もう大丈夫?」
どこからともなく声をかけられて、シンはやっと我に帰った。
首を巡らそうとして左肩に僅かな違和感を感じた。
そこでやっと思い出した。
ルニエ、黒髪の使者、襲撃。
あの時、確かに傷を負った。
己の左腕をゆっくりと動かし、そこにあるはずの傷を触ろうとする。
「まだ痛いの?」
もう一度、声がした。
今度は確実に声のするほうに首を向ける。
色白の大きな瞳の美しい少女が心配そうに見ていた。
「君は?」
訊いてシンははたと気づいた。
目の前の今にも消えそうなほど儚い少女は、間違いなく、見事なまでの黒髪、黒瞳……。
「よう。調子はどうだ?相棒」
間の抜けた声を聞いて、一瞬固くした筋肉から力が抜けた。
聞き慣れたふざけた声。
「マール……」
無遠慮に、シンの横たわるベッドに近づきながらマールは陽気に笑った。
穏やかな表情で二人を交互に見て微笑する少女に、シンは一瞬ちらりと視線を送り、問うようにマールにそれを戻す。
その意図を正確に読み取って、マールは軽く頷いた。
「彼女はルナ。助けてくれたんだ。正直、オレたちやばかったぜ」
マールはふざけた調子でいつものように肩をすくめる。
「お前が真面目に修行しないからだ」
いつもと変わらぬ彼の態度に、シンはひどく安心して、いつものように答えた。
「言えてるわ。ちょっと真面目にパージル先生にご教示願うかね」
「ラクティたちは?」
「騎士団の支部に行ってる。オレはあのかたっくるしいのが苦手だからさ」
 マールは頭を掻く。
 ふわふわと柔らかそうな緑色が揺れた。
「まあ、実は、そのかたっくるしいとこに今からいかなくちゃいけないんだ。報告はしといたから、お前はここにいろよ」
 起き上がろうとして、ひどい痛みにシンはまたベッドの上で力を抜いた。
「無理すんなって、あの大ネズミは『地走り』って言って、毒を持ってるんだそうだ。パージル先生の見立てだけどな。念のため、解毒のマギアはかけといたけど、痛みはしばらく続くってさ」
 仕方なく、シンは頷いた。
「いいか、大人しく寝てろよ」
 ウインクしてマールは部屋から出ていった。

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