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轟々という、耳障りな風の音を振り払うように、シンは剣を横に薙いだ。
「また、あなたですか『奇跡のエスパーディア』。よくよく縁があるようですねえ」
シンの剣に、目の前で勢い良く巻いていた風は霧散した。
その向こうから見覚えのある顔が見えた。
「それはこっちのセリフだよ」
言いながらシンが間合いに踏み込もうと体を前屈みにした瞬間、白い閃光が玉のように固まり、ばらばらとシンに向かって来た。
「遊んでんじゃねえぞ」
シンの周りに見えないドームができ、その玉をはじき返す。
はじかれた玉は空気中に拡散した。
そして、シンの後ろから、一陣の風がまっすぐ見覚えのある顔に向かって行く。
こんどは手を振り上げて、男がそれを防いだ。
「ちっ」
シンの後ろで、マールが舌を打つ。
「これはこれは、なかなかやってくれるじゃないですか」
「余裕こいてんじゃねえぞ。次は外さねえからな」
マールは叫んだ。
ルニエに着いてすぐ、<黒髪の使者>と闘う騎士団に加勢することになった。
シンたちの加勢で、劣勢だった騎士団も徐々に持ち直した。
ラクティたちと別れて、<黒髪>の残党を殲滅している最中、シンとマールはまたも、例のヒトガタに遭遇したのである。
「ここでも人探しか?で、見つかったのか?」
「おや、前と感じが変わりましたねえ、あなたは」
ふふ……と笑って、シンは一気に間合いを詰めた。
「そうかもしれないな」
言って、ヒトガタに剣を向けるといきなり下から上に斬り上げる。
金属が風を切る小気味良い音がした。
ふいっと体を反らせヒトガタが攻撃をよけ、体勢を立て直そうとした瞬間、マールの放った疾風が飛んだ。
寸でのところで、それもかわされた。
「やるな、ヒトガタ」
「なんですか?その優美さの欠片もない呼び方は、私にはジャネス=アミルという立派な名前があるんですよ」
「覚えておこう。ここでお前が倒れなければな!」
シンが強い斬撃を繰り出そうとした瞬間。
「シン!」
マールが叫んだ。
シンに飛びかかる影があった。
巨大な体躯をしたネズミの形の<黒髪>がシンを襲ったのだ。
マールは咄嗟にそのネズミの頭に雷を落とした。
駆け寄ると、ぶすぶすと煙を上げる大ネズミをゴミのようにシンの体からよけて、シンを抱き起こした。
そして思わずジャネス=アミルの方を見上げた。
彼は悪戯に笑うと、すうっと手を挙げた。
彼は詠唱なしにかなり強力なマギアが使える。
防御のマギアを発動させようとしたとき……ジャネス=アミルの手がゆっくり降りた。
「残念ながら時間のようです。あの方がお呼びだ。また、会いましょう」
言ってジャネス=アミルはその姿をゆがめた。
その薄れて行く影の向こうから、また大ネズミたちが襲ってくるのが見えた。
一人で防ぎきれる気がしない。
マールは咄嗟にそこにあった植え込みに力任せにシンを投げ込んだ。
そして、自分もその後を追う。
すぐ後ろで、気味の悪いカチカチと歯を合わせる音が聞こえた。
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