14

 閃光は過たず、荷車を襲った。
 少なくとも、一瞬そう見えた。
 まっすぐに荷車に走った光は、荷車に当った瞬間に大きく広がり、それから目を開けているのもつらいほどの勢いで四方に離散した。
 跡形もなく崩れる荷車を頭に浮かべていた三人は次の瞬間に絶句した。
 そこには何事もなかったように静かに荷車が在ったのだ。
 座席に座る二人の姿を確認して、シンはもう一度男のほうを振り返ったが、そこにはすでに男の姿はなかった。
「どういうことだ?」
 ラクティは目をしばたかせて言った。
 男のことはすっかり頭になく、消し飛んだはずの荷車がそこにあることに完全に心を奪われている様子だった。
「わかりません」
 パージルも同じように唖然として答える。
 シンは大きなため息をつくと、ぱちんっと剣を鞘に戻し、大股で荷車に近づいていった。
「今のはお前か?マール」
 憮然として、座席のマールに訊ねる。
「え?……オレ?何が?」
 慌てるマールに、シンはまた短いため息をついた。
「このオレの横を通り過ぎたからな」
 ゆっくりとシンは言った。
 慌ててシンを追いかけて荷車に近づいたラクティが得心がいったというように大きく頷いた。
「閃光はシンの横を通り過ぎた。シンほどの人間がすぐ横を通り過ぎたアギアに、それが本気で放たれたマギアかただの脅しかの区別がつかないわけがないんだ」
 なんのことか解らず目を白黒させるマールに説明をしてやるようにラクティは言葉にする。
「つまり、攻撃のマギアは本気で放たれたということですね」
パージルも言った。
「マギアは本気で放たれた。なのに、お前たちは無傷だ。誰かが防御のマギアを使わない限り、そんなことはあり得ない」
 そこまで言って大きく息を吸い込むと、一句一句切るようにシンは続けた。
「あの時、マギアの匂いがする……パージルはそう言ったんだ。そこにマリネールはいなかった」
 しばしの沈黙があった。
 目を白黒させていたマールがにわかにその瞳に悪戯な光を浮かべ天を仰いでおおげさに両手を持ち上げてみせた。
「どうやら、相手が悪かったみたいだな。あんたら相手に誤摩化せそうにはないな」
 ほう……と息を吐いて、シンは瞳を閉じ、首を振った。
「オレたちはヒトガタを取り逃がした。悪いが一緒に来て説明してくれないか」
「この状況じゃ、しょうがないだろう。で、どこで誰に説明すりゃいいんだ?」
 訊ねるマールに、シンは、すうっと真剣な視線を向けた。
「騎士団の支部で、エスパーディア・ヴィッシュにだ」
 それを聞いて、マールはもう一度派手に天を仰いでみせた。



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