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 とにかく、印象が強かったのは、その緑色の髪だった。
 女神ユミエルと同じ髪色の人間を、シンたちはまだ見たことがなかったのだ。
 緑髪は現在でも珍しい。
 アドメントでさえも出会えば忘れぬほどの数だ。
 しかも、その男の髪色は、よく見る深い濃緑ではなく、明るい緑色だった。
 神降りるミクラミ草原の緑のように、光を浴び、薄く光るような鮮やかな緑色。
 シンはしばし見蕩れた。
「なんですか?シャリマさん」
 珍しい者を見る三人の視線に憮然としてため息をつき、マールと呼ばれた男は責任者シャリマにやる気の無さそうな声をかけた。
「マリネールのところの荷運びなんだが、このお方たちが用心棒をしてくれるそうだ」
 納得させるようにマールの肩を何度か叩いて、シャリマが言う。
 雇い主の勝手な決定に不満を抱いたのか、マールはあまりいい顔はしなかった。
 しかし、しぶしぶ首を縦に振る。
「いえね、どうやら女が繰る荷馬車が<黒髪>は気に入らないようで。マリネールのところのラシャは毎年驚くほどの値がつくんですが、おかげで今年は思ったように出荷が進まないんでさあ」
 マールの不機嫌を気にも止めないように、シンのほうを向くと、腰を低くして、シャリマは絵に描いたように両手をもみながら言った。
「マリネールはまだ若い華奢な女でしてね。ラシャを育てるのはうまいんですが。今年は畑からの荷運びも男どもが嫌がりましてね。ええ、こいつだけなんですよ。首を縦に振ってくれたのは」
 さりげなく、マールを持ち上げることも忘れない。
 この男は根っからの商売人のようだ。
「何をやればいのかは、解った」
 シンは頷くと、マールに向き直り、頭を下げた。
「よろしく頼む、マール」
未だ緑髪のマールは納得していないようだったが、しぶしぶ小さく頭を下げる。
卑屈なほど低姿勢なシャリマと対照的に、マールはどこまでも不遜な態度だった。
「こっちはパージルとラクティ。そして、オレはシンだ」
シンが軽く自己紹介をしようとした瞬間……
パージルが激しく身震いした。
「どうした?パージル」
すぐ隣にいたラクティが訊ねると、青い顔をしてパージルは首を横に振った。
「よく……解りません。何故だか急に寒気が……いえ、大丈夫です」
言ってパージルは不安そうな顔のマールに笑顔を作ってみせた。

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