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建物の中はまさに喧噪そのものだった。
しつこいようだが、ここはパルソナスでも有数の『田舎』なのだ。
日に焼けた肌を無造作に露出した男たちが、ラシャのぎっしり詰まっているであろう粗目で編まれた祖末な袋を肩に担ぎ、お世辞にも品のいいとは言いがたい声を、これまた無造作に投げ合っている。
入り口で途方に暮れたように立ち尽くす三人の目の前を、何度も人が行き来したが、突然現れたその場に不釣り合いな三人に声をかけるものはない。
それどころか、まったく目の端にもかかっていないようだった。
彼らは他のエスパーディアから一目置かれるほど手練の戦士だったが、なにしろ都会育ちの若造だ。
田舎特有のこのノリというか、空気というか、人間の豪快さにはまったく不慣れなのだ。
「口が開いてますよ、ラクティ」
「ああ……お前もな、パージル」
おおよそ、ここからマギアが使える者など、出てきそうにない雰囲気である。
「マギアの気配はどうだ、パージル」
シンが訊ねたので、はたとして、パージルは周りに気を配った。
「先ほどより、少し薄れてますね。しかし、マギアの匂いはしています」
シンは軽く頷いて、周りに注意を払った。
「オレたちに気がついたのかもしれない。そうなると、なかなかできるヤツだな」
腕を組み、ラクティも呟く。
「そうですね」
三人で注意を払ったが、その場にいる誰一人、こちらに気を払っている様子は無い。
これで三人がこの建物に入って来たことでマギアの匂いを薄れさせたのなら、かなり計算高い人間ということだ。
向こうはこちらに気がついているが、こちらはどの人間なのかも……いや、そもそも人間かどうかさえもまるきり解らないのである。
決定的に不利だ。
「こちらの正体がバレるのも問題ですし……ここは、一度引いて……」
パージルがそこまで言いかけた時、シンが動いた。
パージルの目の前を通り過ぎ、建物の端で痩せた男と押し問答している様子の、恰幅のよい男性に近づいていく。
男性は、そこにいる他の人間と違って、少しばかり高級な服を着ていた。
「って!シン!」
自分の意見を全く無視されたパージルが、シンの背中に手を伸ばしながら追いかけた。
ラクティも慌てて後に続く。
「ここの責任者か?」
無遠慮に、シンは訊ねた。
はじかれたようにシンに視線を向けて、男はシンの頭からつま先まで品定めをするように何度か眺める。
「そうですが、あなたさまは?」
彼の算盤は、どうやら、シンは身分が高く下手に出ておいたほうが良い人間とはじき出したらしい。
「荷車が襲われて困っていると聞いたんだが?」
彼の問いには答えず、さらにシンは訊ねた。
訝しげに、男は片方の眉を持ち上げて、シンの様子を伺った。
「ええ。もしかして、用心棒の志願を?」
「必要であればな」
シンは即答した。
得心がいったというように深く頷いて、男は見苦しい腹を突き出して、これまた聞き苦しい叫び声を上げた。
「おおい!マール!」
「あいよ!」
少し離れた場所から声が上がり、三人は思わずその方向に目を向けた。
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