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「ラシャの荷車?」
 ラクティは素っ頓狂な声を上げた。
 自分で思ったよりも情けない声が出て、思わず口元に手を当てる。
「ああ、そうだ」
 気にせず、シンは頷いた。
「しかも、必ず女性を乗せてる」
 そこまで言うとシンは、街の中でもひと際大きな建物の前で足を止めた。
『アドメントラシャ出荷場』
 建物には、子供でも解るくらい大きな看板が上がっていて、そこがどこなのかを主張していた。
「それと<黒髪>と何の関係があるんだ」
 愚か者のように、ラクティは素直に訊ねた。
 シンは、隣に立って子供のように興味津々にシンの顔を覗き込むラクティの顔を、呆れたようにチラリと見て、それから盛大なため息をついた。
「そこまで解れば苦労しない」
 ラクティは軽く頷くと悪戯に笑った。
「そりゃ、そうか」
 ラクティの笑い声を軽く受け流しながら、建物を出たり入ったりする人の流れをなんとはなしに見ていたシンは、パージルの変化に気がついて、彼に目を向けた。
 パージルは、ラクティとふざけ合っている時とは対照的な厳しい視線を建物に向けていた。
「どうした?パージル」
「マギアの匂いがする」
 シンが声をかけると、注意深く建物に向けた視線を外さないままで、静かにパージルが答えた。
「なんだって?」
「マギアの匂いですよ、ラクティ。しかも、かなり強力だ」
 パージルの言葉に、シンは再び建物に視線を戻す。
「当たりだな」
 三人は同時に息を飲んだ。


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テーマ「人外ファンタジー」
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