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「黒髪黒瞳で堂々と日中歩いているわけはないですからね」
 任せておけといわんばかりに支部を出た三人だったが、さすがに雲を掴むような話に何からはじめれば良いか思案していた。
 相手がラクティ言うところの狼もどきや猫もどき、あるいは蟲もどきならまだしも、多少考える力のあるヒトガタである。
 ラクティがむやみやたらにはじめた聞き込みもうまくいかず、出てくる話のほとんどは突然<黒髪の使者>に襲われて、その<黒髪>は誰かに操られているようだった……ようだった!……そのような類いのものばかりだった。
 やみくもな捜索を一時中断し、作戦を練る事を提案したのは、やはりパージルであった。
 それで、三人は街の中心にある宿屋といっしょくたになった酒場の一角を陣取って顔をつき合わせているというわけである。
 もちろん、ここも、いつもよりも賑わっている。
 今年は100年祭のためのラシャ酒も仕込むわけであるから、例年よりも圧倒的に賑わうのは当然である。
 その喧噪の中、誰も三人に興味を寄せることはないにも関わらず、三人は人目をはばかり、小声で会話していた。
 周囲の人間が興味があるのは、ラシャの実の値段と、収穫量だけだったようだが、初めての任務に浮き足立ってしまうのは、若い騎士にはよくあることだ。
「まさに、その通りだな、パージル。それか、オレさまの気配を感じて去ってしまったかだ」
 自信満々に言うラクティに軽く視線を向け、呆れたため息をつくと、パージルはその細い指先で乱暴にラウーのミルクで満たされたグラスを弄んだ。
「あ、おい。お前今、バカにしたろ」
「当然です」
 ラクティは冷たく言って目を細めた。
「あなたからはどうも真剣さが見受けられない」
「おいおい。お前、オレはいつも真剣じゃねえか」
「あなたの剣技書に真剣という意味は書いてないんですか?」
「お前はいったい何年オレのマーゴをやってんだ。っていうか、お前!だったら良い案でもあるのかよ。ホラ、ないんじゃねえかよ」
 小声で捲し立てられても迫力のカケラもないし、これ以上、いつものように不毛な言い争いを続けている場合でもなかったので、パージルは女性のような美しい掌でラクティを小さく制し、シンに視線を向けた。
「あなたはどうですか?シン」
 二人のやりとりを半ば呆れ顔で眺めていたシンは突然話題を振られて少し面食らったが、軽く瞳を伏せると、まったくもって本人には似合わない、喉を絞るような声で笑った。
「二人とも、街の人たちの話から、本気で何も出て来なかったと思ってるのか?」
 言って、立ち上がる。
「え?おい、シン!」
 流れるような無駄のない動きで、出口に向かうシンに見蕩れていた二人は、はたと我に返り、同時に立ち上がった。
 今はすでに、シンは、店の主に硬貨を投げ、勘定をすませて店を出るところだった。
 二人は慌ててその背中を追いかけた。

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