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 三人は支部に入るとすぐ、大広間の冷たい床に跪き、儀式的な挨拶をすませた。
「顔を上げよ、三人とも」
 落ち着いた低い声で言われ、三人ははじかれたようにほぼ同時に顔を上げた。
 目の前にはいかにも古めかしい剣を床に突き立て、それに寄りかかるようにして、顔にいくつも皺を刻んだ白髭の老人が立っている。
 シンが顔を上げると同時に、その深い碧眼と目が合った。
 幾多の修羅場を乗り越えた戦士特有の深い眼光は、衰えた様子はない。
 シンは知らず息を飲んだ。
 その瞬間、老人の目から鋭さが消え、優しい、包むような光が溢れる。
 これもまた年月を経た者にしか得られない光のように思う。
「良い目をしているの。シンよ」
 老人は三人の中でひと際シンに興味を示したようだった。
 もっとも、エスパーディアの中で「奇跡のエスパーディア」を一見したいと思う者は多くいたので、当たり前のことなのかもしれない。
 老人は一呼吸置いて、傍に控えた若者に剣を渡した。
「三人とも立って楽にするがいい」
 老人は後ろに慇懃に鎮座するごてごてと飾り立てられた座り心地の悪そうなイスに腰を下ろす。
 三人は立ち上がった。
「恐れ入ります。エスパーディア・ヴィッシュさま」
 代表するように、パージルが丁寧に頭を下げる。
「よいよい。ヴィッシュで良い。わしは、セトほど頭は固くないでな」
「……ヴィッシュさま……」
 剣を受け取った若者は、諌めるように老人の名前を呼ぶ。
 老人はそれを片手をひょいと上げて制止すると、余裕のある声で笑った。
「すまんな、こいつは良い青年だがどうも田舎育ちで頭が固くていかん。ところで、セトは元気か?」
「誰か止めてくれというほど元気ですよ、エス……ヴィッシュさま」
 答えたのはラクティだった。
「そうか、それは重畳。ラズルよ、お前もラクティくらい砕けてくれればのう」
 またも余裕のある高笑いをして、ヴィッシュはちらりとシンを見た。
 その視線を感じて、シンは居心地悪さに瞳を泳がせた。
 シンには心苦しいところがたくさんあった。
 もっとも、気にすることではなかったのかもしれないが、長年染み付いた歪みのようなものはなかなか取れるものではない。
 それを感じたのか、パージルが大きく息を吸い込んだ。
「早速で恐縮ですが、ヴィッシュさま、本題に入っていただけますか?」
 その言葉に、またも老人の瞳に鋭い光が宿った。


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