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アドメントに入る頃にはラシャの実の収穫季に入っていた。
街は活気に満ち、往来する人々もどこかそわそわと落ち着かない。
アドメントの街は、かつてのミルチアデス戦役……闇王との戦いで活躍した緑色のエスパーディア、ユミエルの故郷だ。
パルソナスの内陸にあり、港を腹に抱えているザンデスやリンポと違い、流通のほとんどをラウーに頼っている。
母なるサンス川の流れの傍にはあったが、内陸であるためにその流れも細くか弱い。
街自体、ユミエルを讃えるために整備されてはいたが、人々の気質も街の空気も未だ片田舎そのものだった。
唯一の自慢は、パルソナスで一番の高級酒、ラシャ酒の原料であるラシャの実だ。
アドメントで育つラシャの実は上質で、遠くパルソナスの国外まで輸出される。
この時期、その実が赤く染まり、ラシャ畑は派手な色合いを見せる。
アドメントでは、ラシャは富の象徴であり、そうでなくても、その派手な色が街中を染めることで、嫌でも気分が高揚する。
街が活気づくのも頷ける。
「最近では、ここら辺りでも<黒髪の使者>が出るそうですよ」
パルスから出る事がなかったシンは、街の様子にあてられ、思わず足を止めたところだった。そんな彼の耳に顔を寄せて、パージルが囁くように言った。
「え?」
シンは思わず聞き返した。
「おいおい。マジかよ。ユミエルのお膝元だぜ」
シンの疑問をパージルに吐き出したのはラクティだった。
二人の先を歩いていたラクティは思わず二人を振り返っていた。
「……増えてますね」
答えるように、パージルは眉根を寄せる。
「ああ、そうだな。大きな街の周りじゃ、まだ狼もどきだの、猫もどきだの、そんなのばっかりだがな」
言って、ラクティはまた歩きはじめた。
まるで退屈だと言わんばかりだ。
実際、三人は、道中何度も<黒髪の使者>と闘うことがあったが、子供を一喝するような簡単さで、問題にもしなかった。
ラクティの背中をパージルが追う。
「ひとまず、騎士団の支部に挨拶に行きますよ」
「ええ、ヤだよ。じいさんたちの話は長いからさ」
「失礼ですよ、ラクティ」
その細長い指先で、パージルがぽんとラクティの肩を突く。
ふうわりと周りの空気が揺れた。
道中、シンはこういう場面に何度もでくわした。
憎まれ口を叩きながら、二人はいつもお互いのためにあり、一つの塊のようであった。
ラクティのいう、狼もどきや猫もどきと闘う時も、そして、今のようにふざけ合う時も。
歩きはじめた二人の後ろでその背中をほうけたように見つめていたシンを目覚めさせるように一陣の風が吹いた。
はっとして、シンは二人の背中を追った。
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