結末と行く末

 とにもかくにも俺の中二の未来での戦いはーーー……





「おかえり!!」



「少し地殻に影響を与えたがすべてうまくいったぜ!」



「よかった!!お疲れ様!!」



「お。子供のアイツらが過去へ帰ったかわりに、この時代のこいつらが装置から目覚めたんだな」



「ところで」



「ツナはどこいったんだ?」



「ああ。一足先に地上にいってるよ」





それと…と、入江正一に目配せされたそれに気付く。
きっと、彼女も。
一人先に動いた僕に、周りの奴らが「おいヒバリ!」「抜け駆けかよ!」とか喚いたけど、知るか。
知るものか。



地上に出て、並盛神社まで急いで戻る。
そこには数人の人影があった。
いや、正確には2人。
片方は、あの草食動物たちがうるさく喚く相手……そして、小さく数か月しか経っていないというのに懐かしい姿。
僕が見えたのか沢田綱吉がこちらを向き、彼女に手を伸ばして僕を示す。
振り向いた彼女は、確かに。
駆け出して、唇を噛み締めて抱きしめる。
力加減なんてしてやるものか。
小さい頭を抱き込んで、死んだ後に抱きしめた体と違い温かく、血の通った体に目頭が熱くなった。

生きている。

そう感じただけで言いようのない喜びと、怒りと、愛しさと、憎しみが混ざり合った熱い感情が沸き上がる。
どうして。
なんで。
言いたいことは山ほどある。
だけど、その激烈な想いすら包み込むように彼女の腕が僕の体に回った時。
もう何もかもどうでもよくなって、ただただ良かったと、心の底から安堵した。
何も言わないまま抱き合う僕らを見守っていた沢田綱吉が「良かったですね、ヒバリさん」と笑った。
彼女が死んでしばらくした後、突然姿を見せたかと思えば、あんな…過去の自分たちをタイムワープさせる計画の後の話をしていた沢田綱吉に一体何の目論見があったかなんてどうでもいいけれど、すべてを見透かしていたかのようなそれに少しムカつく。
思わず振り上げた左腕を顔に叩きつけようと思ったけれど、「待って」と響く声に動きを止めた。





「先ほど…長い夢から醒めた気がします。そしたら沢田君が、沢山教えてくれました」



「は……。沢田綱吉……咬み殺」



「ありがとう、恭弥さん」





ぎゅう、と顔を胸に寄せて抱きしめてきた彼女に、体が固まる。
片腕はまだ彼女を抱いたまま離していないけれど、彼女の方からここまで身を寄せてくれたことは初めてだった。
すり…と頬を摺り寄せて甘えるしぐさをするピカソはかわいい。
ぎゅ、と胸が締め付けられるような感覚を受けながら、沢田を咬み殺す前に彼女の言葉に耳を傾けることにした。
沢田達が実は巨大なマフィア組織であること。
僕がその組織の上の立場の人間であること。
今回敵対組織に襲われて永い眠りについていたこと。
その間、僕が献身的に支えていたこと。
…実際彼女が死んでいた事は、未来が変わって記憶のなかった彼女に辻褄を合わせる説明をしたんだろう。
他の連中と違って、彼女は数か月前にミルフィオーレに腕を切り落とされて死んだのだから。
無かった事、になったから彼女の右腕もしっかり僕の身に巻き付いている。
…平穏に、ただ絵に生きていた彼女に反社会組織の一人だとついに知られてしまった。
軽蔑するだろうか。
嫌うだろうか。
それでも僕はもう君を手放せないけれど。
僕の胸から顔を上げ、にっこり笑うと。





「でも、前身が自警団で、恭弥さんもしっかりお仕事されてるとも聞きました。恭弥さんは、変わりませんね」



「……ピカソ」



「悪い人達を倒すお仕事なのでしょう?先ほどもそれでしばらく出掛けられていたと聞きました。お仕事、お疲れ様です」



「……うん」



「………ねぇ恭弥さん。私…朧気ですけど…なんだか、すごく恭弥さんを傷付けて…しまったと思ってるんです」



「………」



「でも、同時にすごく…すごく大切に、大事にされていたとも。私は…貴方に愛されているのでしょうか?」





沢田に恥ずかしくて聞こえないようにか、こっそり小声になって尋ねたそれに、僕は彼女を抱き上げて額を重ね合わせる。
僕より背の高くなった彼女の髪が、さらさらと僕の視界を包んだ。
これなら沢田からも見えないだろう……唇を合わせて、耳に口を寄せる。





「うん。愛しているよ…ごめん、伝えなくて」





やっと取り戻せた僕の愛しい人。
もう二度と傷付けない、失わない。
あの頃言えなかった言葉を、ちゃんと君には伝えて行こう。
そう思って抱き上げた体を抱きしめて堪能していれば「あのー…俺が居ること忘れてません?」と遠慮げな声が聞こえて、そろそろあの煩い奴らも集まってくるだろう。
ああ、そうだったね。と言ってピカソを連れて並盛神社の地下へ向かう。
そうだ…一応言わないと。
疲れたようにため息を吐きだした沢田に「礼を言うよ…沢田綱吉」と言えば「え?」と拍子抜けしたような声が響いて、軽く笑った。
それと…過去の僕へ。
任せてよかった。
過去の僕の未来にも、また彼女が隣に居てくれるといい。


















「雲雀恭弥ともあろう男が、呆れました」





柔らかめの低い声。
しかしその腹は声音とは違い、どす黒く闇が深い。
僕が中学時代、初めて負けた男…六道骸が立っていた。
ワオ、君が嫌うマフィアの基地にいるなんて珍しいこともあるものだね、と皮肉を込めて言えばさらりと躱し「ビジネスですよ。僕は一時たりともマフィア風情のお仲間になったつもりはない。組織の代表として赴いてやっただけです」と変わらぬ減らず口を叩く。
コイツと話してても時間の無駄だな、と軽く息を吐き出すと「用件は何。僕を煽るだけで声かけたわけじゃないでしょ」と言えば悠然とした笑みを讃えた口を無に変え、目は細められる。



貴方、パブロピカソを娶ったそうですね。



イタリア育ちの男が、よくそんな言葉知ってたね、と目を細めて煽れば聞いてないかのようにどうなるかくらい分かるでしょう、と怒りを含んだ声で窘める。
第一、六道骸なんかに口出しされたくないことなんだけど。
それにコイツ、いつピカソのことを知ったのか。
それだけ?じゃあ僕急いでるから、と踵を返そうとすると、肩を掴まれた。
ギッ、と睨むが意味はないだろう。





「貴方ほどの人間ならば分かるでしょう、と言ってるのです。彼女は一般人も一般人。戦力としては無に等しい」



「戦力として娶ったわけじゃない。君みたいに…周りを自分の代わりにしてる肉盾と同じにしないでくれる」



「僕は貴方の力を買っているのです。だというのに…強さを純粋に求めていた貴方が、どうして自ら弱さを作るのか。僕には理解できない」



「……君も、知らない人間だったね」





肩に置かれた手を軽く払いのけると、存外すぐに手を退けた。
腕を組み、体を横に向けたまま六道骸を見やる。
君、人を心から愛しいと思ったことはある?と言えば嫌悪を含んだ眼で睨まれる。
僕は初めてだった。
目を閉じて脳裏に思い浮かべた彼女を想うだけで胸が温かい。
唇も、体も、重ねるのは彼女が初めてだった。
それまでただ気持ちの悪いものだった行為が、すべて彼女とだと心地よく、美しいとすら感じる。
戦い、肉を殴る感触、相手を地に沈めることしか快楽でなかった僕が、自分自身の身をあの子と重ねるだけで満たされる気分になる。
他人と一緒に居ることも苦痛で触れることなんて殴る以外はできなかった僕が、ピカソとならただ傍に居るために近づいて、手が伸びて自ら触れる。
それも、教えてくれたのは彼女だ。
僕は今、僕の知らなかった美しい世界を、彼女と一緒に作っている。
だから僕は六道骸に穏やかに笑いを浮かべ。





「僕も少し前までは君と同じだった。存外、人を愛するのも悪くないよ」



「……」



「ただ、僕はさらに強くなったよ。彼女を巻き込まないと決めたからね…まぁこれは結婚してようがしていまいが関係なく決めていた事だけれど」





結婚なんて、ただの儀式で僕がちゃんと正式にあの子を自分の物にしたかっただけで行ったものだし。
じゃあね、と今度こそ踵を返す。
六道骸が「ではこれでどうです」と言う言葉に振り返る。
奴の腕の中には、僕の基地で待っているはずのピカソがいた。
偽物…どう考えても分かるそれに、僕はため息を吐きだしながらケンカを売られているんだ、とトンファーを構える。





「クフフ。どうします?貴方が先ほどまで話していた僕は幻覚で、今は実体…貴方の基地から拝借して来ました。心酔している愛しい人ですよ?」



「きょ…やさん…」



「確認しに戻ってもいいですが…僕が簡単に逃がすはずもないですよね?」



「……六道骸、よっぽど僕に咬み殺されたいようだ」



「た、たすけて…恭弥、さん…」





それを聞いた途端、地面を強く蹴り飛ばし、炎を伴った武器でピカソごと殴り飛ばす。
かろうじて急所は避けたか、六道骸は吐血しながらも後方に飛び去り、抱いていたピカソも頭から出血しながら倒れた。
ピク、と痙攣しながらも「うあ…ひど…い」と呻くそれを足蹴にする。
それから六道骸にチェーンを飛ばすと、ビシ、と弾かれたそれが壁を抉った。
胸元を抑えながら「何故……」と呟いた六道骸を見下ろす。





「良い事を教えてあげるよ。1つ目、ピカソは捕まらないように僕がしっかり守っている。彼女もそれを理解している。2つ目、万が一、絶対にないにしても捕まった場合。彼女は僕に迷惑をかけないようにする。だから…決して助けて、なんて言わない」



「………ク。フフ…僕ともあろう者が、詰めが甘かったようだ」



「いや、そう思っても仕方ないよ。実際…今までそれで僕は何度も失敗してるようだから」





白蘭に聞いた話と、本来の未来の僕の姿。
腕を切り落とされた彼女を献身的に支えたけれど彼女は死んでしまった。
僕より絵を選んだのだと、白蘭もあの僕もそう思ったんだろう。
実際…そうじゃなかった。
桜の舞うあの日。
彼女は確かに「僕を信じる」と言った。
死んだピカソは僕を信じ切れなかったんだろう。
献身的に支えていた理由が、彼女を愛していたから…だということを。
雲雀恭弥に迷惑をかけている。
それが嫌で彼女は死んだんだ。

愛しいだろう。だから僕はそんな彼女を信じ、愛する。
僕の言葉を聞いていた六道骸は少し静かに思案したかと思うと、何か思い当たったように「クフ…そうでした。女性という生き物はなんとも…奇妙で時に予想を超えた判断を下すことがある」と言った。
奴にも、同じような女が……ああ、いたな。
案外、こんな奴でもすぐ傍にありすぎる存在には気付くのが遅れるのかもしれないな。
僕も…本来はそうだったかもしれないけれど。
じゃあ、今度こそ行くけれど、次…こんな不愉快な偽物を晒したら首を貰う。と足を進めた。
僕を待っている子がいる。






To be continued.



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -