AtoZ−社会人時代 1ー




 2018年11月。
地元の宮城県に戻ってきて、親と…影山の実家へと寄った。
高校卒業と同時に影山と同居。
オリンピックに出たりワールドリーグに出たりする影山に付き合うのは大変だったが、同時にとても楽しかった。
東京のお土産と同時に、家に上がらせてもらって線香を添える。
ちゃんと、傍で見ていますから。



「飛雄、迷惑かけてない?」



「いえ、全然。むしろ助けてもらってばかりです」



「そう?でも来年は…」



「それも、ちゃんと話してくれました。大丈夫です。イタリア語は勉強しましたので」



「…相変わらず、しっかりしてるね、ごんべちゃんは」



白鳥沢も、一般で合格してるしね。飛雄、頭は良いとは言えないから。
苦笑いする影山の母親にあはは、と笑って返す。
でも、バレーでは一番です。誰にでも出来る事じゃないですと自信満々に返すごんべにそれもそうね、と笑った。
高校生活が忙しかった分、今は余裕すら感じる。
大学卒業まで待ってくれたのは、たまたまなのか。
以前から海外リーグに挑戦したい、できればイタリアだと言っていた影山にじゃあ海外留学してくる、と離れたりした。
大分説得に苦労はしたが、将来的に海外に就職することになるかもしれないならそれなりの準備がいる。
帰ってきてからは影山の拘束時間が長かった。
大変だったが嬉しかった。

シュワイデンアドラーズには、かつての先輩である牛島若利もいる。
そして今日の試合は特に盛り上がるだろうと思うのは、随分と上機嫌で見せられた選手紹介ページ。
日向翔陽がいるから。
私も、彼と飛雄君の試合を見るのが楽しみで仕方がない。













試合が終わって外で待つ。
それまで鷲匠先生と牛島先輩と会い、「ごんべ、元気か。お前は根性のある女だったからな」と頭を撫でられた。
鷲匠先生は怖かったけれど、同時に尊敬できる恩師だった。
「ああ。お前程強い女に会ったことは未だにない」なんていう喜んでいいのかどうなのかという牛島の言葉にも笑顔で応えた。
随分暗くなった、と思いながら試合の凄さ、久々に会えた人たちに興奮が収まらない。
だからあんまり寒くない、と思いながら居れば「…あ」という声が聞こえて振り返る。
金田一と、国見だった。
なんだか気まずい。
北一中3年間、最初はそれなりに仲が良かった。
でも段々と影山が一人になっていって、その影山の肩を持った、持ち続けた。
ちゃんとしたマネージャーなら、きっと気の利いた事を言って、彼らの仲を上手く取り持てたかもしれない。
しっかり仕事が出来るマネージャー、と周りは言ってくれる。
だが、実際のところ、それは全て基本のマニュアル通りで、一番大事な部分では一つも出来なかった。
何も、することが出来ない。
結局、私はあれから成長できていないのかもしれないと思ったが、2人から近づいてきた。
う、と身構えて俯きそうになった顔を上げる。
そして体を折って、謝ろうとした。



「謝るなよ!」



「……!」



「俺、間違ったこと言った。影山を一人にしなかった、お前がいてくれて良かったって今は思う」



「…そんなことない。私は、マネージャーじゃなかった。ただ飛雄君ばっかりで、駄目な奴だった」



「それでも。マネの仕事は本当に助かってた。高校行ってお前がいなくて、よくわかった。アイツ、また俺らとバレーしようって言ってくれた。そん時、お前も見に来てくれよ」



「…まぁ、俺は気が向いたらだけど。仕事始めたばっかだし。やりたいこともあるし」



「……あはは…。うん!私も、ちゃんっと今度は皆をサポートするから!」



「そんな本格的なのやったら、俺、腕折れる」



「折れねーよ!」



「国見君上手いんだから大丈夫だよ!衰えてない!」



「その自信はどこから」



もう帰るなら送るぞ?と金田一の優しさは変わらず、首を振って「飛雄君待ってる」と言うと2人は少し驚いて「やっぱりもう結婚した?」と聞いて来た。
まだ、まだ。じゃあ結婚したら知らせてくれよ、と去っていく背を見送って。
手を振っていれば後ろからガッシリ掴まれて「おい。入口で待っとけって言っただろ」と振り返った先、影山に言われて確かに少し離れていたと謝る。
「影山ぁーー!突然走りだして…って!白鳥沢の!」と指を指される。
おお、間近で見ると本当に大きくなった、と見上げる…日向翔陽。
その後ろから月島、山口、谷地と並んで歩いてきている。



「…どちら様?」



「白鳥沢のマネ!影山の好きな子!」



「ちょ、ちょっと日向!本人の前でそれはマズイって!」



「え?大丈夫だろ、だって高1の試合後にチュむぐ」



「黙れ日向ボゲ。握りつぶすぞ」



「えっと…白鳥沢のマネしてました、ななしごんべと申します」



「ご丁寧に…烏野のマネでした、谷地仁花と申します」



「何君ら、お見合いでも始めるの?」



「来年結婚すんだから見合いするわけねーだろ皮肉眼鏡」



「は?」



「ん?」



「え?!」



「んな!!」



「け、結婚?!」



「いや、なんで当事者の君が驚いてんの。王様、勝手に決めてんの?流石に横暴すぎない!?」



影山の来年結婚する発言に月島、山口、谷地、日向、そしてごんべも驚く。
隣に立つ影山を見上げれば、影山も驚いてごんべを見下ろしていた。
そして焦ったように両肩に手を置いて軽く揺さぶった。



「はぁ?!ごんべ、俺と結婚するだろ?」



「しょ、将来的にはそうかもしれないけど来年なんて話聞いてないよ!」



「イタリア行くんだから結婚しといたほうがいいだろ!なんか、ナンパ多いって聞いたぞ」



「付いて行かないし、私イタリア語分かるから大丈夫だって!」



「俺と結婚すんのが嫌なのかよ」



「そうは言ってない!」



「じゃあ結婚してくれ!」



「……っ!……っ!!いい、よ!!!」



こんな形でプロポーズ!?
でもダメなんて言えるわけがない…!と思ってOKと応える。
するとそれを見ていた月島、山口、谷地、日向がそれぞれパチパチと力なく拍手したり、茫然としたり、顔を真っ赤にして顔を覆いながら覗いていたりとそれぞれの反応を見せていた。
「俺、誰かのプロポーズ見んの2回目!」と興奮した様子の日向に、「キューピット日向…?!」と谷地が反応した。
「ていうか、バレー試合後の体育館前でプロポーズなんて王様らしいね」「だね、ツッキー」と半笑いのそれに「あぁ?!」と噛みつく影山を止める為にごんべは腕を引いた。



「じゃー影山の奥さんも一緒に飯行きませんか?」



「! いい、の?」



「王様の恥ずかしい話とか聞かせて下さいよ」



「あぁ?!」



「私、私も、飛雄君の大切な人達から烏野での話、沢山聞かせて欲しいです…!」



満面の、屈託ない笑み。
影山のことなのに、何て嬉しそうに笑うのか。
それに、”飛雄君の大切な人達”という言葉に、普段言わないが影山は自分たちをそう言ってるのかと彼らは思った。
「じゃあ…俺と影山が入部早々追い出された話から…」と得意げになった日向に顔を真っ赤にして恥ずかしそうに「日向ボゲ!」と追いかけ回すのを見て、ごんべも月島、山口、谷地も大声で笑った。
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