AtoZ−高校1年時代 3ー




 烏野高校。
影山が選んだ、もう一つの強いところ。
バレーにしか興味がない彼が、進学に選んだのは県内一の強豪の白鳥沢、そして烏野高校だった。
白鳥沢は何となく知っていた。
有名だったし、影山の祖父の母校でもある。
北一時代の及川や岩泉がまだいた時にも当たって…牛島若利という大エースに一度も勝てなかった。
白鳥沢学園に来て、圧倒的な強さとバレーへの熱を持つ彼と影山の何が違うのか。
決して金田一や国見、他のメンバーが悪かったわけではない。
影山にも悪いところがあった。
だが、影山と牛島とでは、理解してくれる周囲の人間も違うと思った。

牛島も言葉数が多いわけではない、影山と変わらず素直…というか裏のない言葉。
ただ、影山よりもより自分が絶対的な強者であるという自信。
どんなボールでもどんな壁でも打ち抜くというシンプルな強さ。
そしてそれに対する周りの信頼、尊敬。
セッターである白布賢二郎は影山とは正反対だと思った。
白鳥沢は強い。
白布のセッターである理由も、牛島に頼り、点を稼ぐシンプルな強さも理解できる。
でもやっぱり、それを見れば見るほどに影山を間違っていないと思ってしまっていた。



「………すごい」



飛んだ。

スパイカーの誰よりも小さい、オレンジ色の髪の10番。
あの影山の速いトスを、飛んで打った。
「あんな横暴トス、誰も打てるわけがないだろ」
速さを求めてしまう、ブロックから逃れるトスを、チームメイトはそう言った。
でももし、それが打てたら?
誰よりも練習していた、誰よりも勝ちたいって頑張ってた、そんな影山の想いを誰も解ってくれなかった。
自分はバレーをしても、同じチームとして影山の隣には居れない。

それに着いてこられる…いやむしろ追い抜こうとすらする。
その”誰も打てない”トスを打とうと飛んでくれる、そんな仲間に、影山は会えたのだ。
たまに、白鳥沢にも影山がいたら、と合格していたら一緒に居れたのかもしれないと厚かましく思ってしまう時もあったが、影山は烏野に行くべきだったのだと心底思った。

そして、思いだした。

あの子、この驚き。
北一最後の年の、初戦の、飛んだ子だ、と。
素人同然のチームで、そんな相手にも手加減すらせず全力だった影山に相変わらずでかっこいいと思っていた。
そして、あの子は最後まで諦めずにボールに食い付いていた、貪欲だった。
白鳥沢だって負けてない。
ちゃんと強い。
沢山練習していた、それを一番近くでずっと見ていた。
だけど、試合の中で段々と成長していく烏野に、負けた。
悔しかったけれど、仲間に囲まれてちゃんとチームとしてバレーをしていた影山を見て、悔しいどころか嬉しいと思ってしまう自分は、マネージャー失格だと思った。


















「試合見てて、思いだした。日向君って中学3年で当たった、すごく飛んだ子」



「おお……!覚えててくれたんですか!」



「私、同い年だから、敬語しなくていいですよ」



「あ、そっか。ありがと!影山と比べて優しい…」「おい日向ボゲェ!!何して……」




試合終了後。
片付けをしている時にお手洗いに行こうとしていただろう日向と会って少し話す。
そんな日向と話すごんべを視界に入れると、ギッ、と睨みつけてズカズカと大股で近づく。
バッ、と間に入って距離を取らせると「何話してたんだよ!」と影山は日向に噛みついた。
そんな影山に文句を言う前に、後ろからごんべが腕に触れて「飛雄君。普通に話してただけだよ、ほら北一の試合のこと」と臆することなく声をかけた様子に思わず日向は、おお…と感嘆する。
影山がそれに対して「…そうか。ならいい」と落ち着いたのを見て、嘘だろあの影山が!?とさらに驚く。



「………おい日向。俺は話してから行く。さっさと離れろ」



「んな!?俺も話したいんですけどーー!」



「ボゲ!!何を話すんだよ!さっさと行け!」



「ケチ!ケチ山!ケチ影山!そんなんだからモテないんだぞーー!」



「うっせぇボゲェ!!」



そう言って頬を膨らませて日向は通路の曲がり角で足を止めて息を殺す。
あの影山が女子と話、なんて部活のマネージャーと話す以外滅多に見ない。
試合前も意味ありげな会話をしていたのを見ている。
一体どんな会話を、と面白半分で揶揄うつもりだった。
次に日向がその2人を見たのは、影山が酷く弱弱し気に、しかし強くしっかりとごんべを抱きしめている光景だった。
「ほげぇ…!?」と思わず声が漏れ出るのを必死に両手で抑える。
影山の身体にすっぽりと収まり隠れてしまう、そんな女子の肩口に額を当て、ぼそぼそと何かを話すと少し顔を持ち上げて唇を重ね始めたのを見て日向は真っ赤に、体が熱くなるのが分かった。











目の前にごんべがいる。
試合に勝った。
あの白鳥沢に、ウシワカに。
ちゃんと仲間を作って強くなった。
だから、だからもう、いいだろ。
帰ってきてくれ、と耳元でささやいて、間近の、好きで好きでたまらないごんべの唇が目に入って、重ねた。
ただ何も考えず、そうしたかったから。
想像以上に柔らかい。
なんだか、甘い気もする。
ちゅ、と何度か重ねていれば、ぐ、と胸元を押されて顔を離して目を開ける。
真っ赤になって、口を抑えて自分の胸元を抑えるごんべの顔が見えて、興奮した。



「だ、めだよ、飛雄君。彼女、でもないのに、こんな」



「すき。すきに決まってるだろ。ずっと……ずっと俺はごんべがすき、」



「とび…ん…」



小さい体を逃げないように両手を壁に縫い付ける。
やべぇ、ずっとこうしていたい。
柔らかい、口が開いたそこにもっと、と舌を入れると絡ませた。
くちゅり、普段聞かないような音、茫然としていく頭に、熱くなる体。
自分の大きな手を、腰に滑らせてシャツの隙間に入れればビクリ!とごんべの体が震えあがった。
流石に、マズイ。
そう思ったごんべは顔をずらして、影山の唇から逃げる。
それを追って、顔を動かすと、滑り込ませた手を頬へと移動させた。
ぐい、と足の間に膝を滑り込ませて生暖かさを感じる。
「や、だ。駄目、だから!飛雄君!」と離れた隙に声を上げたごんべに、驚いて少し離れる。
ハァハァ、と肩で息をして、唾液で濡れた口元を拭うとキッ、と影山を睨み上げる。
潤んだ目で睨まれても、怖くない、と思った。



「こういうの、は。もっと2人きりの時にします」



「……う、お、おう」



「………私も、飛雄君が好きです」



そう言って、ぎゅ、と抱き返された影山は一瞬体を固まらせ、その背に腕を回す。
「……やべぇ。離れたくない」と言った言葉に「ふふ、私も」とどことなく楽しそうに言うごんべに、影山は唇を尖らせた。



「烏野に転校して」



「……ううん。難しい。お母さんが頑張ってお金とか払ってくれたし」



「……じゃあ、このまま連れて帰る」



「コラコラ。我儘言わない。………じゃあ、高校卒業したら、迎えに来てくれませんか」



「………!」



「高校3年間って約束だったでしょ」



「一方的な。………もう絶対離さないけど、それでもいいの」



「いいよ。飛雄君が2年後もそう思ってくれるなら」



「覚悟しろよ」



影山の傍に居るべきではない、邪魔なだけだと思っていた。
傍に居て欲しいと言ってくれる影山に結局負けてしまう。
実際、影山に見放されてしまったら本当に一人になるのは自分だととうの昔に知っていたはずなのに。
甘すぎるのは良くないと昔の先輩にも言われたが、自分が甘やかしてもらっているから直せないなぁとごんべは思った。
そろそろ行くね。先輩たちのクールダウンも終わったと思うから。
そう言って離れていく。
「また、会おう」と言った影山に、ごんべは振り返るとニッコリ笑った。
見送ったのち、影山も戻ろうと曲がり角まで歩いた時、顔を真っ赤にしている日向がいて驚く。



「おま…!何してる!」



「か、影山君……ハレンチ!ハレンチだぞ!!」



「な!ばっ…!このボゲェ!!!のぞき見してたのか!!!!」



「何言ってんのか全然分かんなかったけどチュー!!めっちゃチューしてた!!」



「こんの!日向ボゲェ!!!黙れ!!!!」



「チューしてたーーー!!!」
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