AtoZ−高校1年時代 1ー




 「あの優男のサーブすごかったなー。最初からアレやられてたらやばかったぜ。流石影山と同じ中学のせんぱ……アレ?っていうか影山ってなんで烏野に居るんだっけ?」



青葉城西との練習試合終わり。
帰りの道中で田中龍之介が言う。
その前を歩いていた澤村大地と菅原孝支も振り返り、坂ノ下商店にてもらったぐんぐんバーを食べながら聞いていた影山と日向翔陽は振り返った田中に足を止める。



「県内一の強豪っつったら、やっぱ白鳥沢だろ」



「しらとり?」



「白鳥沢っつー、県ではダントツ。全国でも必ず八強には食い込む強豪校があんだよ」



「おおー」



「落ちました。白鳥沢」



何でもないように食べ終わった影山が口を開く。
落ちた?!と驚く田中。
白鳥沢から推薦来なかったし、一般で受けて落ちました。試験が意味不明でした。との言葉を聞いて澤村も顎に手を置き「あそこは普通に入ろうとしたら超難関だもんなぁ」と呟く。
その脇を通り過ぎる月島蛍が「へーえ。王様勉強は大したことないんだねー」と言い、山口忠も「お疲れーっス」と揶揄いの言葉をかけ「チッ!」と影山は舌打ちする。



「で、なんで烏野?まさか!お前も小さな巨人に憧れて…」



「引退した烏養監督が戻ってくるって聞いたから」



「うかい…?」



「無名だった烏野を春高の全国大会まで導いた名将!烏野の烏養って名前がもう有名だったよな。凶暴な烏飼ってる監督だっつって」



復帰予定だったがまた倒れて復帰の予定はない。
2,3年生は少しだけ指導を受けたと聞いて、影山も日向も羨ましそうに見つめる。



「けど別に、どの学校に入ったって戦う相手は同じ高校生。勝てない理由なんてない」



「負け惜しみはよせ。カッコつけて言っても無駄だ」



「プッ!」



「違いますよ!カッコもつけてません!実際に今日四強に勝ったじゃないですか!」



笑った日向を片手で持ち上げて手を離す。
日向の囮。
これからもっと強くなっていかなければ、守護神が戻ってくれば、夏のIHも、全国大会も夢じゃない。
そう話した後、ああそれと、と田中が「優男が言ってたごんべちゃんって……」と振り返る。
また足を止めた影山の顔を見れば、先ほどと打って変わって眉間にしわを寄せ、暗い顔をしている。
おい田中!と菅原は咎める。
及川から言われていた言葉は「横暴すぎた王様に、流石の用心棒ちゃんも呆れちゃったのかな?」
恐らく…北川第一のマネージャー。
ただこれは全て推測で、影山からその名前を聞いたことは一度もなかった。



「……小・中で付き合いがあった……マネージャー、です」



「へぇ!同じ高校か?!なら潔子さんの負担を減らすためにも是非とも……!」



「田中!!」



「烏野にはいません。…………白鳥沢に行きました」



「んな…!」



「そ、その白鳥沢って超難関なんだろ!?すげーじゃん!」



「……………」



日向の言葉にも返さず、足を進め、田中・菅原・澤村を追い越して先を行く。
なんだ?と首を傾げる田中と日向に「あんま影山の前でその子の事言うなよ」と菅原は言う。



「なんで?ですか?」



「いやそれはほら……な?察するだろ、流石に」



「察する……?」



「スガ、何か知ってるのか?」



「大地もかよー!いや、なんとなくわかるじゃん!元カノ、とかそういうんじゃないの?高校分かれてそのまま別れちゃった、とかそういうの!あるじゃん!」



「ま、マジか…影山の奴、彼女が…?!」



「俺だったらたとえ潔子さんと大学が分かれたりしても絶対!付き合えたら別れないけどな…!?」



狼狽える日向に、眉間にしわを寄せ理解できないという顔をする田中。
どこか他人事の澤村にため息を吐き出す菅原。
確かに、意外だとは思う。
バレー一本バレー命、天才な上にその能力に慢心せず常に上を目指し続ける。
そんな影山が女子を気に掛ける……まして恋愛関係にあったかもしれない、なんて。
どちらにせよ触れてほしくない、影山のもう一つの地雷なのかもしれないと菅原は思った。











白鳥沢学園に入学して寮に入った。
同じ部屋になった子は優しそうな子で良かったと思う。
部活案内を受けて、男子バレー部はどちらになりますか、と尋ねて入部届を書いて体育館へ向かう。
「あれ、1年生?女子バレーは違う体育館だよー?」と赤髪を逆立てている背の高い…おそらく先輩、が全身で違う方向の体育館を指す。



「1年3組、ななしごんべと申します。男子バレー部のマネージャー希望で来ました。なにとぞよろしくお願い致します」



「………マネ?まぁーじで?!うれしーーー!……すぐ辞めないでネ?」



「天童。何をしている」



「若利くん!マネ希望の子!本日5人目〜〜!」



「そうか。鷲匠先生に挨拶してきてくれ」



「うちの監督ね。鬼監督。案内するよ」



「ありがとうございます」



希望者、5人目。
多いんだ、と思うが、確かに強豪校のマネージャーなら希望する人も多いだろう、とごんべは思った。
顧問用の部屋に向かえば「んじゃ、頑張ってー!」と天童と呼ばれた先輩は軽い足取りで体育館に戻っていく。
ノックして失礼します、と挨拶すれば「どうぞ」と声がかかる。
扉を開け、年配の男性が椅子に座っており「……うちのバレー部のマネージャー希望か」と言われる。



「今年入学しました、1年3組のななしごんべと申します」



「うちのバレー部は生半可な覚悟の奴はいらねぇんだ」



「はい」



「数ある部活の中、どうしてうちのマネージャーを希望する?」



「厳しい環境下でも、強いバレー選手を支えられる強い人間になりたいからです」



「………女だろうがマネージャーだろうが、俺は容赦しねぇからな」



「はい。よろしくお願い致します」



3人、新しくマネージャーとして入ったが、2人はそのうち思っていたよりも地味で大変だと辞めていった。
ごんべは北一時代の経験も活かしながら、大学選手の人達のプレーや、牛島のスパイクの威力、練習量を逐一メモしていった。
1年生でバレー部員として入ったベンチ入りでもない子たちと力を合わせながらサポートする。
北一の時も大変だった……だが、白鳥沢、人脈も広い上に人数も多いので作業量は中学よりも多く、少しでも遅ければ鷲匠からの怒号が飛んだ。
普段の勉強も手が抜けない。
部活終わりで寮の自室では寝る時間ギリギリまで机にかじりついていた。
その様子をやはり白鳥沢のバレー部も見て、好感を抱いた。
自分たちも鷲匠に叱られる怖さと緊張は良く知っていた。
それを受けても、きつくてもなお泣かずにこなそうとする粘り。
「たまには弱音吐いてもいいんだぞ」と心配の声をかける優しい先輩もいた。
だがそれには決まって「いえ、大丈夫です」と笑顔で返す。
ごんべは、とうの昔に自分が弱音を吐く相手は……影山の前だけだと決めていた。

そして迎えた夏のIH予選。
トーナメント表に載っている白鳥沢と…烏野を見る。
4回戦。
4回戦目で、当たる。
中学を卒業してから、裏切られたとでもいうような影山の顔。
白鳥沢に行くと決めてから影山と、あれだけ一緒に居たのに今では一言も連絡を取っていない。
別にお互い連絡先を知らないわけじゃない……ただ、何を言っていいのか分からない。
きっと、何を言っても、あの時言ったことが全部で、このままじゃいけないんだと物理的に距離を開けた。
いやそうでなくても、バレーに近いところに居れば、強い人達のところに居れば、また会える。
その前に……青葉城西。
国見と金田一と……及川、岩泉のいる強いところに、烏野は当たる。
今まではずっと青葉城西が白鳥沢に当たって来たと聞いた。
心配じゃないと言えば、嘘になる。
小学生の時から影山という人間を見てきた。
真っ直ぐで、バレーに真剣で、常に全力だから、そこまで熱中する何かを持っていない人間からすれば理解できない類の。



「…約束、したからね」



だから、私も頑張るよ。
初戦、扇南高校との試合はIブロック。
烏野高校は勝ち上がって次に青葉城西と当たる。
キュ、とトーナメント表に線を入れれば「あーららのら?ごんべちゃんはうちじゃなくて他に気にしてる高校があるのかなー?」と天童に後ろから覗き込まれる。



「天童先輩、今日はお菓子持ってきていませんよ」



「いーんだよ。明日に期待〜。明らかにさぁ、君マネ経験者じゃん?注目選手がいるとか?」



「そういえば、ななしは北一だっけ。大体青城に行くだろ。白鳥沢なんて一般だと受験難しいし」



「……大事な人が、強すぎたせいで…私がそれを後押ししたせいで独りぼっちになりました」



「………」



「白鳥沢はその子が行きたかった高校で…私だけが受かりました。離れるにはいい機会だと思ったので、白鳥沢に来ました」



「へーーえ。愛の力、ダネ?」



「……違います。というか先輩たち、早くアフターケア終わらせないと鷲匠先生に怒られますよ」



うわ、ヤベ。
そう言って離れていく瀬見と天童を見送ってぐるり、と腰から上を回した天童が「烏野、上がってくるといーね♪」と言う。
うわ、よくわかったな…分かりやすかっただろうか、とごんべは驚きつつも流石だと思った。
読みが上手い。
そのブロックが得意な先輩だからこそ、ごんべの機微にも気付くのだろう。
短いようで長かった、数か月。
元気だろうか。
また、あの頃のように一人で頑張っていないだろうか。
ちゃんとバレー、楽しめているだろうか。

IH予選、4回戦目。
勝ち上がって来たのは青葉城西で、ごんべは影山と再会を果たす前に、及川、岩泉…そして金田一と国見と先に再会を果たすことになった。
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