AtoZ−中学生時代 1ー




 「俺、北川第一に行く」



「! じゃあ、私もそこにする」



「ん」



なんで北川第一?とごんべが聞く。
夏休みの宿題をするために影山の家で教材を開いていれば「バレー強いとこ」と影山は眉間にしわを寄せながら宿題を睨みつける。
カラン、と夏の暑さに氷が少し溶けて音を鳴らす。
ごんべの親は片親で日中は仕事でほとんど家に居ない。
それまでは祖父がいてくれたが…その祖父ももう数年前に居なくなった。
「夢はプロバレー選手?」とさっきまで一緒に見ていたバレーの試合を思い出しながらごんべは影山に聞いた。
コクリ、と頷いた影山にキラキラとした目をごんべは向けると「カッコいい!飛雄君なら絶対なれる!」と言う。



「俺がプロになったら一与さんとごんべちゃんを一番試合見れるとこに連れてく」



「! ありがとう!じゃあ私一生懸命応援する!あと折り鶴頑張る!」



「ん」



その前に宿題終わらせてお見舞い行こう。
ム、と唇を尖らせた影山の、全然進んでいない問題集にここはこれ、とごんべは答えを指した。
秋山小学校、卒業式。
皆と違う中学に進学することでゲームで遊んでいた友達と多く別れたが、影山と一緒だったからそんなに悲しくはなかった。












「中学ってすごい」



「うん、大人な人沢山!」



「ごんべちゃん、マネージャー本当にやるの」



「うん。飛雄君が頑張るの、応援するって決めたから」



こくん、と頷く影山と部活動初日の帰り道。
「悪いけど、恋愛気分で入られるのは困る」と3年生に言われていたごんべを見て心配した。
3年生にとても女子に人気な人がいて、その人目的な希望者も多かった、と後々に聞いた。
北川第一はバレーボール部に力を入れていた分、敏感だったんだろう。
小学生時代から強かったごんべは、そんな気持ちはありません。と3年生相手に言っていたので影山の方が緊張したくらいだった。
そのまま影山の祖父、一与が入院する青葉南病院へお見舞いに向かう。
興奮気味に話す影山を見て、ごんべは嬉しくなりながら笑顔でその様子を見る。
いつも見ているパソコンとDVDをチラリと見て「試合観たい」と言った影山に体調が良くないのか疲れたから明日でもいい?と言う祖父に少し残念そうに頷く様子を見てごんべは「明日また来よう?」と言うとコクリ、と頷いた。



「ごんべちゃんもお見舞いありがとう。気をつけて帰ってね」



「一与さんも、無理しないでね。飛雄君に付き合えない時は私が代わりになるから」



「! じゃあ家に寄っていく?」



「うん。一緒に見よう」



「ごめんね、いつもありがとうごんべちゃん。遅くならないようにね」



「私もいつもありがとう、一与さん」



祖父の体調が悪い時はごんべが影山に付き合って見た。
トスのやり取りも、どうせ家に帰っても誰もいないから、と影山に付き合い、部活のマネージャー業務も教わったことを逐一メモして半年後にはすっかりマネージャーとして板についてきていた。
控えで先輩たちの試合を見る影山は、レギュラーと近い位置で試合を見てノートに記録を取るごんべを見た。
自分の超える壁、及川徹、という素晴らしい3年生のセッターを担う先輩。
タイムアウトで背の高い3年生に囲まれて試合の様子をタイミングよく挟んでレギュラーメンバーの会議を手助けする様子は影山から見ても流石だと思った。



「及川さん。サーブ教えてください」



試合に出られた、と嬉しそうな様子な影山が残って練習をする及川にサーブ教わってくると駆け出して行った。
あの試合中、隣に座っていた及川は、普段の様子と違い、ただただ悔しそうに俯いていた。
凄い先輩。
影山と同じく勝利に貪欲で、努力を惜しまない、3年生のセッター。
そんな年上が、年下に居場所を取られた時……ミスをしていたからただ空気を流れを変えるための試しの交代でも、代わりがいるという恐怖。
マネージャーという位置から普段の試合のサポートをしていたからこそ、影山よりも及川のその嫉妬心と焦りをほんの少しだけ、感じていた。
だから後を追って走った。
飛んでくる寸前の手を止めた岩泉と、その前に立っていたのはごんべだった。
自分より小さい背、つむじが見えて、何が起ころうとしていたのか理解できなかった。
「影山。悪いけど今日は終わりだ。ななしも先に帰って良い」と謝る岩泉にペコリ、と頭を下げる影山。
何とも言えない顔で及川と岩泉を見つめたごんべも、ペコリと頭を下げて影山を追った。



「腹減った。ごんべちゃんも食う?」



「私はいい。ありがとう。ねぇ飛雄君、及川先輩に…」



ごんべが何かを言いかけた時に「バレーはコートに6人だべや!相手が天才1年だろうがウシワカだろうが”6人”で強い方が強いんだろうがボゲが!!」という岩泉の声が聞こえ、「…何当たり前の事言ってんだろうな」と影山がつぶやいたのを聞いてごんべは「そう、かもね」と返す。



「ねぇ飛雄君」



「何?」



「及川先輩にバレー教わる時は私を連れて行ってね」



「……?なんで?」



「なんででも」



飛雄君、米粒ついてる。と言って頬を指すと「ん」と返して取る。
次の日にまた部活終わりに及川に聞こうとして約束を思い出すと影山はドリンクボトルを洗うごんべの腕を握り、「今、いい?!」と聞くと勢いに驚き頷いたごんべを連れて「及川さん」と声を出す。




「サーブトスのコツを、教えてください」



「………やぁ〜〜だね!バーカバーカ!だーれが教えるもんかー!」



「……?!」



「……!!」



「おいクソ及川。恥ずかしいことしてんじゃねーぞ」



「岩ちゃん!もっとオブラートに言って!っていうか!マネージャー引っ張って見せつけてんじゃないよ1年の癖に生意気なんだよーー!」



「……こ、れは。ごんべちゃんが言ったんで」



「………ああ」



影山、多分今日も教えてくれないぞ、この大人げない先輩は、と岩泉が言うと着替えを促す。
ごんべは岩泉に手招きされて近づくと「昨日は悪かったな」と謝られた。
そして及川も「俺も、ごめんね」と打って変わって真剣に謝られてごんべは焦る。



「……俺が飛雄ちゃん殴ろうとしたの、ごんべちゃんは気付いてたんでしょ」



「……!………あの、はい」



「お前、女の癖に肝が据わってんな、ホント。怖くなかったのかよ……」



「……飛雄君が傷つくことの方が怖いので」



及川先輩は尊敬できる、凄い先輩です。短いですが先輩たちのバレーする姿、私も出来る限り支えたいです。でも、飛雄君を怪我させないでください。と頭を下げたごんべを見て、何とも言えない顔をする及川と岩泉。
やれやれ、と肩を落としため息を吐き出すと、及川は「ごんべちゃんはマネの仕事ちゃんとしてくれるし、飛雄の事大事なのも分かるけど、贔屓は駄目だよ」と言う。
岩泉は腕を組んで静観していた。



「このボケが影山に手を挙げることはもうない。俺がしっかり尻叩いたからな。でもま、お前は確かに影山に甘過ぎる」



「………はい。あの、皆さんの邪魔はしません。飛雄君と私はそういうのではないです。ただ……凄く、大事な人なだけです」



「………マネの仕事し始めたのも、飛雄の為?」



「…はい。ごめんなさい。でも、やるからには真剣にします」



「それは分かってる。伊達に半年以上見てねぇよ」



「ありがとうございます」



頭を下げたごんべの頭をポン、と撫で「じゃあ今度俺とデートする?」「お断りします」と即答するごんべにつまんなーい!と及川は言う。



「あ、でも私は何とも思っていませんので、謝るなら飛雄君にお願いします」



「おう。ちゃんと頭下げさせる」



「岩ちゃんはもっと俺に優しくして!」



「……あの」



「おう、影山。昨日は悪かったな」



「………悪かったよ。でもぜーーーーったい!何も教えてやんない!!」



「………諦めません」



ぐぐぐ、と岩泉に頭を抑え込まれる及川は、反抗しながら舌を出して頑なに教えないと繰り返す。
それに、影山はム、としながらも絶対にサーブのやり方を盗む、と唇を尖らせて「ごんべちゃん、帰ろう」と手を掴んだ。
うん、と頷くと「及川先輩、岩泉先輩、お先に失礼します」と頭を下げて影山も合わせて下げる。
そのまま2人で体育館を出て行く姿を見て「……もはや愛、だな。本当に中一かアイツら?」と岩泉は呟く。
ボールを上げて「ほんっと、ムカつく!」と言いながら強く叩きつけたボールは、少しラインより外側に突き刺さった。
体育館を出て、暫くして影山はじっ、とごんべを見ると、その頭を撫でる。
「?」と突然のそれに首を傾げながら嬉しそうにすると影山は満足げに頭から手を離した。
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