地獄の沙汰も鬼次第




 「唐瓜と茄子はいいよね……」





はぁ。
ため息を吐きだし、資料室で出会った2人に声をかける。
2人は互いの顔を見合わせてから何かあった?どーした?と心配してくれる。優しい。
2人とは家が近くて幼馴染という関係だ。
ただ、配属された部署が違う。
新卒ではあるけど、私は拷問なんかより記録…事務系が得意だという点で早めに技術課に配属されたのだ。
それもこれも今の上司のせいなんだけれど…。
はぁ、と二度目のため息をしたところ、今度一緒に甘味処にでも行こう、と誘われてうん、と力なく返事をした後、上司に頼まれた資料を持って技術課へと戻った。





「おーう、ごんべ!持ってきたか!待ってたんだぜ〜〜」



「…烏頭さん、またこんな…ていうか女子に頼む資料じゃないです!」



「いいじゃねぇか。そ〜やって初心な反応するのもうお前くらいしかいねーし」



「……」





烏頭さん。
若者言葉が結構あって、親しみやすいと言われてるけど機械バカでその尻ぬぐいを私がしなくてはいけない。
幼いころから仲が良かったらしい蓬さんもいるのだけど…こっちはこっちで二次元バカというか…幼馴染だからか気が合うときには便乗して変な発明をしだすので頼りになる時とならない時がある。
その一つがこれ。
頼まれた資料というのが機械獄卒を作るというていで持ってこいと言われた女性の雑誌やら人体の云々。
ぜっっっったい要らないだろ…!胸の資料とか!っていうかなんであるんだよ資料室!
そしてそれを持ってこさせるとか新人弄りにも程があるって言うかセクハラだよね?!
堅苦しい男の人なんかよりはまだ付き合いやすいけど…だからってこう、虐めてくるばかりの人もヤダ!
ニヤニヤしながら私の頭をぽんぽん叩く烏頭さんに耐えていれば、飛んできた金棒が彼に当たって飛んでいく。
パチパチ、瞬きをして飛んできた先を振り返れば手を叩きながら入って来た閻魔大王第一補佐官、鬼灯様だった。
慌てて姿勢を正してお辞儀をする。
そんな私を見て鬼灯様は「お疲れ様です、ごんべさん」と声をかけてくださる。
うっ…!仕事が出来て、言葉遣いも丁寧。少々暴力的なところもあるけれど、きちんと頑張る人は評価してくれる、誰もが憧れるまさに理想の上司…!
そんな鬼灯様から労いと名前を呼んでいただけるなんて…今日はいい日だ!
緩みそうな顔を一生懸命繕って、今日は何か御用があって来られたんですか?と尋ねれば、あのバカに少々頼みたい仕事がありまして、と言いながら金棒を持つと鼻血を出しながら起き上がった烏頭さんに誰がバカだ!と胸倉を掴まれている。
……ほんと、不思議なことだが、この2人も幼馴染らしい。
烏頭さんと蓬さんはうんうん幼馴染な感じする〜って頷けるけど、そこに鬼灯様も加わるとなると最初は信じられなかったくらいだ。
まぁでも鬼神と恐れられる鬼灯様に正面切って文句言ったり胸倉掴んだりすることができるのは幼馴染所以でないと無理だろう…。





「烏頭さん。貴方のそのキテレツな発想と技術は称賛に値しますがね…新人をあまり虐めるんじゃありません。というか普通にセクハラだバカ」



「うるせーーな補佐官殿ぉ?!俺の部下だ!つーかただ資料頼んだだけだろセクハラじゃねーし虐めてもねーよ!」



「烏頭…新人の女の子に裸体資料と下着資料を頼むのはセクハラだと思うぞ」



「ああん?!じゃあお前が取りに行くって言うのかよ!お前だって男が取りに行ったら変態だーって言われるしなって納得したじゃねーか!」



「そもそもそれ着手したのは諦めたんじゃないんですか。そんな発明するよりもっと実用的なものを作りなさい」



「男の夢を否定するのか貴様ぁ!」





ギャーギャー言い合う3人を眺めて、はぁと一つため息を吐いてからちょいちょい、と鬼灯様の袖を引っ張る。
気付いた彼が振り向いてくれて、「鬼灯様、ありがとうございます。蓬さんの言う事もその通りですし…烏頭さんの発明は本当に凄いですし。機械獄卒が出来れば従業員不足も解消できるかもしれません。このくらい大丈夫です」と言うと、暫く黙った後にため息をついて「嫌な時は嫌というべきです。それも大事なことですよ」と言って軽く頭を撫でてくれた。
鬼灯様…いいんです。
烏頭さんの軽いイビリにも、貴方がこうやって手を差し伸べて褒めてくださるから…!
頭撫でてくれた…じぃん…としていれば蓬さんが「まぁ確かに、別に女性じゃなくてもいいわけだしな」と言って悪かったなぁと謝られる。
分が悪い…と思い始めたのか、顔を顰めた烏頭さんが「ごんべ、嫌だったのかよ…その、ごめんな」と頭を掻きながら言う。
そういうところは、好ましいんだよな…といえ、いいですよ、と笑う。
鬼灯様、暫くお話されて行かれますよね?お茶淹れます、と席を外す。
頼まれた資料を烏頭さんの机の上に置いてからちょっとルンルン気分で給湯室へ向かう私。













「でもまぁ、気持ちは分かります」





彼女、弄りがいがありますよね。
相変わらずの無表情で答えた鬼灯に、だろ?と同意する。
そして困った顔というか、呆れた顔をする蓬。





「真面目で素直だし、虐めたくなるっていうかな…反応が面白い」



「ですね。いい子だと私も思いますよ」



「ああ〜それはあるな…ただ、烏頭のどうでもいい弄りにも真面目に返すから…あんま虐めんなよ」





一生懸命仕事してるってのは俺もお前もよく知ってるじゃん、と蓬に言われる。
まぁ。
機械獄卒の件も、他の女事務からは変態だのくだらないだの言われて相手にされなかったが、ごんべは鬼灯に言ったように従業員不足解消につながるならお手伝いします、ときた。
悪いところは悪いとやわらか〜く指摘して、蓬の検問もクリアした試作品を鬼灯に報告する資料なんかもアイツが見やすくまとめてくれる。
在庫なんかも足りなくなってきたら困る前に発注お願いします、と声かけもするし…フンコロガシ屎泥課に飛ばされ戻ってきた後も帰ってきてくれてよかった〜とか、次は飛ばされないようにフォローも頑張りますとか言うし。
いい奴…なんだよなぁ。と頷いていればお茶を3つ持ってきたごんべが近くの机に置いて、椅子を持ってくる。
それにそれぞれが座って…鬼灯だけは立っていたが。
なんだよ、座れよ、と声をかけると懐中時計を懐から取り出し、「あまり長居はできませんから」と時間を確認して戻す。
補佐官になってからというもの、多忙に多忙を重ねている鬼灯。
幼い頃バカやったり金持ちの子供なんか締めたり闇市を見に行ったり。
気軽にできる時間が減ったのは少し寂しいが、こうして変わらず話して俺の発明をいい具合に使ってくれるからな。
湯飲みを持ち上げて茶をすすりながら、お願いしたい器具があるのです、と簡単な模型図を見せてくる鬼灯の案と希望を聞きながら、俺の意見も返す。
そうしてまとまった意見に、じゃあ納期はこのくらいか〜なんて話して、懐中時計を取り出した鬼灯が「ではそろそろ時間ですので」と湯飲みを置いた。





「おー、また来いよ」



「はい、ああ…ごんべさん。お茶ご馳走様でした。美味しかったですよ」



「は、はい!鬼灯様もお仕事お疲れ様です…!」





踵を返して部屋を出て行く背中をしばし見とれたように見送るごんべ…は、鬼灯が好きなんだろう。
アイツを好きになるなんて…まぁ物好きというか、可哀想だというか。
ぽん、と頭を叩いて「おうごんべ。今日は詫びついでに晩飯を奢ってやろう〜。ってことでこれ、図面起こしよろしくな」と鬼灯から預かったそれを渡す。
唇を尖らせて「わかりました、烏頭さん」と湯飲みを片付ける小さい背中。
さて、俺も仕事に取り掛かるかーと蓬とデスクに戻る。
さらに詫びついでに、鬼灯の食べる席に一緒に座ってやろう、と思った。









社員食堂で、奢ってくれるという烏頭さんの言葉に乗って、とり天定食を頼む。
烏頭さんは丼物を頼んでいて、結構食うよな、なんて言われて睨み返す。
女性に言ったらだめですよそれ!と言えばへいへい、と適当に返事をしてテレビの前の席に座った。
あれ、そこって…いつも閻魔大王と鬼灯様が座る席…。
何突っ立ってんだ、早く座れよ。と手招きされてとりあえず烏頭さんの隣に座る。
あの、ここいいんですか…?と耳打ちすれば大王様はもう食べたらしいからな、と蓋を開けて箸を手に取った烏頭さんはもう食べる気満々だ。
いやだって、鬼灯様…とそわそわすれば「ここ、いいですか?」と低いバリトンボイス。
ぱっと顔を上げれば案の定お盆を手に取った鬼灯様が!
「おう、座れよ補佐官」とニヤリ笑って丼を口に運ぶ烏頭さんに、「珍しいですねここに座るなんて」と言いながら烏頭さんの正面に座った鬼灯様。
ひ、ひええ。
周りの視線が痛い。
新人獄卒が、何鬼灯様の指定席に座って一緒に飯食ってんだ、っていう視線が!
ぐぬぬ…と視線に耐えながら箸を手に取ると「ごんべさん」と声をかけられ、ひゃい!?と何とも言えぬ返事をした。恥ずかしい。





「美味しそうですね、それ…何の天ぷらですか?」



「あ…とり…鶏です。とり天定食、好きなので」



「とり…あの、私の天ぷらの1つあげますので、1つ頂いても?」



「え!!?」



「嫌でしたか?」



「ちが…!いえ、あの!どうぞ!!」





鬼灯様は天ぷら定食だったみたいで、野菜と魚介がほぼだ。
では、と鬼灯様の使うお箸がとり天を1つ取っていく。
ああ…とり天!私はいまお前が羨ましいよ!と眺めていれば、そのまま違う方向からも箸がやってきて私のとり天を1つ攫って行った。
何!?と見やればニヤニヤした烏頭さんが「俺も1つ」とか言いながら勝手に口に運んだ。
く、くそ…この上司…!
ぐぬぬ、と唇を噛み締めていれば「怒んな怒んな、これやるからほら」とご飯の上に卵が絡んだカツを1切れ乗せられる。
むぅ…とそれを眺めて「アリガトウゴザイマス…」と言えば「私も1つお返ししますから」と鬼灯様が天ぷらを私の方に寄せてくれた。
ええ…っと。
1つしかない天ぷらは取らないようにして、メインのえび天も2尾いるけど烏滸がましいし。
あ、と平らな2枚あったそれの1つを指さし「これ頂いてもいいですか?」と聞く。
それを選ぶとは…なかなかいいセンスしていますね、と褒められたがなんの天ぷらなんだろう。
では頂きます、と1つ頂いたそれをさっそくたれにつけて頂く。
ふわっとした身に、淡白な味がするそれは白身魚の味に近い。
でもなんだろう、甘みがある。
これ、また食べたいな…と思って飲み込んだ後「この天ぷらすごくおいしいです!なんの魚ですか?」と聞いてみた。
鬼灯様は分かってて選んだのではないのだと知ると少しだけ首を傾げて「金魚草です」と答える。
え。





「き…金魚草…ですか?」



「はい。正確には金魚草の身の部分です」



「え…いえ、それは分かりますが……た、食べていいんですね…」



「EU地獄からいらしたサタン様にも活け造りにして出したこともありますからね。食べられますよ」



「ふ…不思議な生き物だ…」



「生物か植物か妖怪か分かれば学会で表彰ものですからね」





ちょっと育ててみたいかも……と呟き飲み込んで、烏頭さんにもらったカツも頂く。
ペット欲しいんだけど、観賞用に魚もいいなぁと思っていたし。
「興味ありますか!」と少し声を張って言われる。





「苗…というよりも稚魚と言いますが、市販のものもいます。ですがもし興味がおありでしたら私の庭から1つお渡ししますよ」



「え…いいんですか?」



「はい。金魚草仲間が増えるのは嬉しいので」



「お前はよくわからんものを好きになるなぁホント」



「烏頭さんも育てたらわかりますよ…ああその前に枯らすか」





育て方等、分からないことがあれば聞いてください。と鬼灯様に言われて。
わぁ、思わぬところで接点が!と嬉しくなった。
食べ終わった後こっそり烏頭さんにお礼も込めてお菓子を渡した。
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