ミヤンズと腐れ縁と王様-2-




 春高後から定期的に影山と連絡のやり取りをしているらしい幼馴染兼腐れ縁のごんべ。
侑は「お前、惜敗した敵の、しかも俺と同じセッターやろ。スパイになったりせーへんやろな」とちょっかいをかけていたが「はぁ?お前そんくらいで負けるくらい弱いんか?あと私ら来年は高校生ちゃうねんぞ」という言葉にぐっ…と言葉を詰まらせた。
アランとななしは元々、宮兄弟との縁もあり付き合いも長い。
そして高校から北や大耳、赤木とも付き合いがあるのは主にアランと宮兄弟接点である。
特に北とは、馬が合うようで、あの二人がタッグ組んだらもはや侑と治は頭があがらないのであった。



「まぁでも、来年は勝ってな」



「想い人が負けてもええんか」



「私が好きなのは烏野やなくて飛雄君やしな。チームでいうなら稲荷崎の方が好きに決まっとるやろ。何年見てきたと思てん」



「ごんべのそういうとこ、俺は好きやで」



「煽てても飯奢ったり作ったりせんからな治。というか嬉しいんちゃうの。倒したい強い奴が増えるってのは」



ニヤリ、と笑うごんべを見て、侑も治も顔を見合わせてニヤリと笑い返す。
思い出なんかいらん。
IH準優勝も、春高敗退も昨日の話。
次は絶対に倒す、それしかない。
















そんな青春を過ごした高校時代。
ごんべは高校卒業後に就職。
社会人になったことにより、平日の休み取得や金銭的余裕も生まれ、影山の試合を見る回数も増えた。
相変わらずやんちゃな双子に振り回されながらも、有意義な毎日を過ごしていた頃。



「……………」



「……ななし、顔怖いで」



「そりゃ、怖くもなるやろ。あれ見て北君」



飛雄君、女子に囲まれてん。キャーキャー…あれどっかで見たなぁ。
と真顔で見ているのは全国大会中の会場。
高校3年生になった影山には勿論活躍が目まぐるしく、ファンが多くできていた。
元から顔が良かった上に純粋無垢、というか。
侑や治でそういう光景には見慣れていたはずだったが、どうにも感じ方が違う。
モヤモヤイライラと募るそれに、「そない気になるならはよ行けばええ」と冷静に北信介は言葉を投げる。
アランや侑はVリーグに進み、実家の農家で働く北、飯屋の経営のため勉強中の治が付き合ってくれる。
のだが。



「北君は乙女心がわからんのやな。あの中は傍から見たらお花畑やけど実際は戦場や。どの花が一番見栄え良く見せれるかっちゅー争いが勃発してんねんで」



「…今年の稲穂の出来が良いか悪いかみたいな感じか」



「そうそう。その中で一等美味い米を……て、稲穂にすんのやめーや!」



「ごんべは花ちゅーより、稲穂の方が似合うとると俺も思うわ」



「でもそれなら、その田んぼん中にななしも蒔かれんなら、実ることも出来んやん」



「上手い事例えんで!!治は殴られたいんか!!」



「お前から言い出したことやろ。………まぁ、植えるのなら得意やで」



今年もちゃんと育ててるからな、と北に背を押されてバランスを崩す。
わ、わわ、!と言いながら突っ込んだ先は見事に影山の前で、囲っていた女子たちはぶつかるのを避けて道を開ける。
ナイスキャッチ、やな。と言った治の言葉が小さく聞こえ、支えられた体は影山が腕を添えてくれていた。



「ごんべさん」



「と、とと、とびっお、くん!」



「大丈夫っすか」



「だ、大丈夫!大丈夫やで!体丈夫なんは自慢やからな!!それより飛雄君は大丈夫?!ごめんな!?」



「いえ。大丈夫っス」



「よかった〜〜!」



「さっきからよくわかんないこと聞かれてたんで、助かりました」



好みのタイプだとか、今フリーですかとか、好きですとか。
え、と固まったごんべと周り。
好みのタイプ…タイプ…タイプって何スか。フリーって、俺は烏野所属っスよね。好きってのもなんでかよくわかんねーし、と顔を顰める影山に震える声を抑えながらごんべは口にした。



「飛雄君…彼女彼氏、恋人とかは分かる?」



「ああ。それなら。俺の先輩がよく作ってました」



「そういう、相手のこう…好きになるなぁ、とかええなぁとか思うところはどこか、とか。飛雄君に恋人がおるかおらんかって話と、あとは純粋に飛雄君にそういう好き、っていうか恋人になってくれませんかって言うとるんやと思うで」



言いながら、何を言ってるんだとごんべは思う。
それは全部、自分も聞きたいことで、恋人になってくれませんか、とかは言いたい言葉そのままである。
影山はその説明にやっと「ああ」と合点がいった顔をして。



「好みとかはないです。恋人はいません。そんで、俺はそういうのに興味ないっつーか、わかんないっス。つーか俺が好かれる意味もわからないです」



衝撃が走った後。
数分前まで花畑、稲穂と例えられていたその集団は一気に枯れる。
意気消沈、そしてその純粋さと残酷さに。
すんません、と言って頭を小さく下げる姿は人として好感が持てた。
「いやええんやで!飛雄君はバレーめっちゃ頑張っとるし!よそ見できんの当然やんか!そのままでええんやで!!」と口では言いながら高い壁だと感じていた。
しかし……ごんべは諦められなかった。
知れば知るほど影山という人が好きで好きでたまらなかったからだ。
ごんべなりに年下、高校生、ユース代表として声をかけられている影山にアタックし続けた。
それでも、影山が高校を卒業する少し前に「付き合って欲しい」と伝えれば『いいですよ。どこに行きますか?』と返ってきてついには、ああ、この純粋さを私は一生守って行こうと誓ったのである。

















『悪い、飛雄君数合わせに合コンに巻き込んでもーた。許して』



コ○す。
という殺意がぶわっと湧きながらも店の名前と場所を聞く。
道中、侑からの定期連絡で送られてくる『飛雄君、飯しか食わん』とか『いや、マジで飯しか食わんわ』という文字ともりもり、ほっぺ沢山に含んだ顔が幸せそうな写真が送られてきて、正直これだけでもう可愛いと思えて仕方がない。
こんな…!こんな子を!男と女の出会いを求める場に連れ込むだなんて何してくれとんねん!こちとら告白も「どこにですか?」で終わってんぞ!という違う怒りを胸に進む。
ようやくついた頃、お開きなのか場所移動なのかぞろぞろと見覚えのある背の高い集団と着飾った女の人達が見えて足の速度が速まる。
聞こえる会話で「影山選手って本当に経験ないんですかぁ〜?」とか「練習終わったならこの後も一緒にどうですか?色々教えますよぉ〜」と腕に豊満な胸を押し付けられ、いかがわしいことに巻き込まれそうになってるそれに「待てや!!!」と大きい声を出す。
踏み込んだ足、抱き着いたのは影山の腰で、それでも体が資本なバレー選手の負担をかけさせまいと足腰に力を入れる。



「飛雄君はこのままでいいねん!!穢さんといて!!私がこの子を守ったるーー!!」



「…え、何この人」



「頭おかしいんじゃ…」



「おいおい、突然来てそれかい。もっとなんかあったやろ、余裕なしかアホ」



「っさいわボケツム!大体お前が…!!」



「あの」



「俺、この人と用があるんで、帰ります」とぐっ、と腰に腕を回される。
そうして引き寄せられた体と密着したそれに目が点になった。
「じゃあ、ご馳走様でした」とそのまま連れていかれて大分離れた先でごんべはようやく影山に声をかけた。



「え?は?!何?!用て!」



「駄目ですか」



「駄目じゃない!!!……けど、良かったん?」



「? 良いです。お腹いっぱいになったんで」



「そ、そか。なら…」



「………それで、別腹っていうか。ごんべさん見たら触りたくなりました」



「…へぇ?!」



「ごんべさんはこのままでいいって言ってましたけど。………変わってもいいですか」



「…………」



小さく、「良い。良いに決まっとる。むしろ今心臓止まりそう」と答えたそれにぐっと顔を近づけられて唇が重なる。
あれよあれよと影山の家へと向かい、広いベッドの上でお互い裸になって散々恥ずかしい声も姿も晒して繋がった夜が明けた朝。
痛む腰と、思ったよりも色々知っていたそのギャップと展開にごんべは布団を引き寄せる。



「……ちゅーか、なんで抱いたん。セフレ、とか?私それは嫌やで」



「? セフレって何ですか?こういうのって、恋人とか夫婦がやるんでしょ?」



「………うんまぁ、それが理想やけど。飛雄君は私のことそういう好きにならんのやないの」



「??? 付き合ってって言って、俺、いいですよって言いましたよね?」



「………え?ん??でもどこに、って言うたやん。で遊園地行ったよなぁ?」



「それがデートってのになるんじゃないんですか?」



「………………なる、かも?」



「俺、こういうのどうやって言い出せばいいのか分かんなくて。人生経験した方が良いって宮さんに誘われて。でも全然わかんなかったですけど、ごんべさんが来てくれたんで」



「………………」



「明日もしていいですか」



「……良いよ。けど、もうちょい優しくしてな」



「! ウス…!」



すんません、すげー気持ち良くて夢中でした。と照れくさそうに言う影山はやっぱり自分の知ってる影山で。
伝わっていないと思っていた数年前の告白も、影山なりにOKだったようで、そういえば練習で忙しいはずなのに会ってくれたりご飯食べに誘ってくれたなと思い返す。
純粋無垢で絶対絶対、この先もこのまま守っていかなければと思っていたはずだったが、この逞しい体に抱かれてしまった後、というか今まで恋人だと思われていた事に、それはそれで良いな、と思う自分は現金だと思うごんべであった。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -