AtoZ−小学生時代ー




 「飛雄、ゲーム持ってないって本当?」



「…うん」



「一個も!?」



「持ってない」



「えーっダッセー!」



小学校の昇降口、通信ゲームして遊んでいる同級生に誘われたDSに対して持ってない、と言えばあり得ない、と言われる。
ムッ、と唇を尖らせる。



「飛雄君、持ってないなら私のしてみる?」



「………ごんべちゃん」



教室内でも上手くしゃべれない影山を気にかけてくれる女の子。
チーム分けやペア決めで最後の方まで残ってしまう影山にいつも声をかけて独りぼっちにならないようにしていた。
だから流行りのゲームの通信対戦中、男女混じってやってる中でごんべからゲーム機を差し出され、なんとなく悔しくて、コクリ、と頷く。
自然の草原を歩くと、軽快なBGMと同時に現実には居なさそうな生き物が出てきて「この技をあの子に当てて、この緑いろのゲージが赤くなったらボール投げるんだよ」という説明を受けて言うとおりにするとボールが揺れてつかまえた!というメッセージが出る。
影山はそれを終えると眉間にしわを寄せて「……これ、面白い?」とごんべにDSを返す。



「いろんな街とか、リーダー倒したりとか友達と通信対戦できるから楽しいよ」



「…あんまおもしろくない」



「そっか……」



「ごんべちゃん、飛雄とじゃなくて俺らと通信しよーぜ」



「……うん」



いいから、と首を振って行くのを促す影山にえっと、んっと、と悩んでいるごんべをぐいぐいと押してみる。
折れて通信中の男友達の輪の中に入ったごんべは一人で帰っていく影山の背を見送った。
次の日、放課後に雨が降り体育館で遊ぼう、とバレーをすることにした。
影山と同じチームになり、打ちやすい位置、高さに飛んでくるボールに驚いたごんべ。
スパイクも打てる影山にクラス全体でバレーやってんの?!なんて話になる。
全員に囲まれて凄い凄い、と言われる影山を見てごんべは笑った。



「ごんべちゃん」



「あ、飛雄君」



陽が落ちて暗くなってきた古ぼけたバス停。
山の方に住んでいるごんべはバスが来るのを待っているのかベンチに座って先日影山が貸してもらったDSを握っていた。
それを見て、影山は隣に座って覗き込む。
座った影山を見て、少し驚きながらもいつも独りぼっちだったバス停に誰かがいるというのは少し嬉しかった。



「飛雄君もバス?」



「ううん。歩いて帰れる」



「私、もうちょっと待つから、帰った方がいいよ。暗くなると危ないから」



「いい。ここにいる」



「………ありがとう、飛雄君」



「ん」



いつもこれしてるの。と影山は少し背の低いごんべを見てゲーム画面を見る。
「うん。私が寂しくないようにおじいちゃんが買ってくれたの」と嬉しそうにごんべは言った。
バレーは一人でボール遊びはできるがバレーの試合はできない。
たしかにゲームなら、明るいし、一人で遊べるし、都合がいい。
けど、途端にゲームの電源を落として、蓋を閉じたごんべに影山は少し戸惑った。
その顔を見てニッコリ笑うと「今日は飛雄君がいるから、いいや」と言う。



「…昨日通信してた時、数字、一番大きかった」



「うん、家でもしてるから」



「……バレー、楽しいよ」



「うん、楽しかった。飛雄君凄く上手で人気者だったね」



「バレーの時だけだよ。いつもはごんべちゃんだけだし」



「明日からはきっとそうじゃないよ」



「………」



ニッコニコ、笑っているごんべを見て「……ごんべちゃんだけでいい」と影山が言うとごんべはとたんに驚いた顔をする。
暫く黙った後、「じゃあ、私は飛雄君といるね」と照れくさそうに言った言葉に影山も少し笑った。
バスが来て、気をつけて帰ってね、と走り去るまでずっと手を振っていたごんべに手を振って影山も帰る。
翌日からクラスメイトの目が変わったが、影山はごんべと行動を共にしたし、ごんべも影山と一緒に居た。
毎日遅くに来るバスを待つごんべの隣に座って話をするのも日課になった。
学年が上がって行ってもそれは変わらず、ただ周りの冷やかしが増え始めた頃。



「飛雄はごんべのこと好きだもんな、1年の時からべったりだし」



「そうなの飛雄君!?」



「……うん。ごんべちゃんのこと、すきだよ」



周りの言う好き、という本当の意味を分からず、人として友達として好きだと言った影山の言葉は正しく伝わらず、アイツら付き合ってるー!という声と女子からの妬みの目がごんべへと向いた。
上履きがトイレに行っている間に無くなる、展示した習字の紙が破られる、虫そっくりのオモチャが引き出しに入れられる、ということが増え始めた時、ごんべが暫く休んだ。
一週間後に登校してきたごんべに慌てて駆け寄った影山は、酷く弱った様子にどうしたらいいか分からなくなった。
狼狽える影山に、やはりごんべはニッコリと笑うと背の伸び始めた影山の頭を撫でる。



「大丈夫。ありがとう、飛雄君」



「……おれ、は、ずっとごんべちゃんと居る」



その言葉に、じわりと顔を歪ませるとうわーん、と泣き始めたごんべに影山は酷く驚く。
嫌なことを言ってしまっただろうか、慌てる影山の後ろから、泣き声を聞いた先生が教室から出てきてごんべを連れて行った。
心配で扉の前でソワソワと待つ影山に、出てきた先生が困り果てたように影山を連れて少し離れた場所で告げる。



「…あのね飛雄君。ごんべちゃんは先週おじいちゃんが天国に行っちゃって、まだ悲しい気持ちなの。だから、優しくしてあげてね」



ガツン、と頭を殴られたような気持ちになった。
ガラリ、と扉が開いた音がして「先生!飛雄君は悪くないって言った!私が弱かったの!」と出てきたごんべを見ると影山は駆け出して、ぎゅっ、と手を握りしめる。



「と、とび、お、くん」



「ごんべちゃん。我慢しないで」



「……!」



「ごんべちゃんはいつも、強かった。おれの前では、弱くていいよ」



じわり、とまた大きな目からボロボロとこぼれ出る。
うわーん、と泣き始めた彼女の頭をぐっ、と抱き寄せるとごんべはぎゅ、と影山の袖を握りしめて胸元で声をくぐもらせながら大声で泣いた。
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