ミヤンズと腐れ縁と王様-1-




※エセ関西弁です。注意。





 「こんの………クソガキどもが………」



こっっっっわ。
侑と治は正座で冷や汗を流す。
生まれた時から双子は一緒だったが、家が近く、幼稚園も小学校も中学も挙句高校も同じ1つ年上の幼馴染兼腐れ縁と呼べる他人が、いた。
名前をななしごんべ、紅一点の女子である。
で、あるが、今現在その紅一点は青筋を立てて阿修羅、はたまた仁王像のごとく形相で180cm超えの男2人を見下ろしていた。



「やから言うたやん…やめとけってボケツムが」


「なっ…!最初バレんやろとか言うて持ちだしたんはサムやろが!」



「そら、お前がポカせんかったらの話やろがい。お前のせいや」



「っんの…適当言いよってクソサム…!」




「おいこら、聞いとんのかクソボケツインズ」



「「!」」



今日という今日はマジで許さん……とあまりの怒りに目が潤みだしている幼馴染の本気度に流石の双子も悪かった、と罪悪感で胸が痛くなる。
治が先に頭を下げ、「すまんかった!今度弁当の…クッ、からあげ、やるから…!」と心底辛そうに謝り、それを見た侑はズル!と言いながらも頭を下げたのちに「あの、あれや。俺は…あ、飛雄君!にごんべを会わせたる!」と名案と言わんばかりに顔を上げて言う。
その言葉に治は思わず顔を上げて「おま!お前の方がずるいわ!」と叫んだ。
ぴく、とごんべも侑の言葉に反応を示す。
しめた。
ユース合宿後の話である。
今回の呼ばれた中で記念と言って写真を撮ったのち、それをごんべも「侑みたいな人でなしの集まりやないよな」とか言いながら見たのである。
その写真の中、固まったごんべが震える指で示した「こ、この、人。誰?」と写真上の顔に触れるのも恐々とした様子で触れたその人物が影山飛雄であった。
宮城の烏野高校、と知ったのち、日本地図を見るたびに宮城…と呟いては兵庫と宮城を指でつないで距離が遠い…と言ったり全国来んかな…と思いを馳せていた。
恋、やな。と侑も治も察していた。



「……いや、会えんやろ。お前宮城に行く予定あるんか。私ら高校生やで」



「全国上がってきたら俺は飛雄君と顔見知りやしな!声掛けくらいおかしないやろ!」



「全国上がってきたら、って話やん。未来やん。確定事項やないやん。アホツム。んなことに釣られる軽い女やないで」



「めんどくさ……ゴホン!でも上がってきて、この交渉に乗らんかったらお前も念願の飛雄君に会えんで」



「……………………………………………………………………………予選で負けでもしたら次こそは沈めるからな」



「(……沈める気やったんか、コッワ)」



「(俺のからあげは守られたな)」



「治はからあげと卵焼き寄越せや。お前ら守らんかったらクソダサ写真クラスにバラまいたるからな」



「「ヒッ」」



瞳孔が開いた目でジッ、と顔を近づけられた双子は震えあがった。















「で、お前らなにやらかしたんや」



「………………………………………………………………………………………………」



「………………………………………………………………………………………………」



「大方、またおかしな事したんやろ。ななしも大変やな」



「今度ごんべの好きなお菓子持ってきて渡したろ」



「アラン君も北さんも俺らがなんか悪さしたって確信すんのなんなんですか」



「せやけど、実際お前らが悪いんやろ」



「まぁ、今回は俺らが悪いな」



「………男として当然の欲望やと思う、俺は」



「そういうのが悪いっちゅーねん!」



翌日の登校日。
同じクラスの尾白アランは朝から「アラン君。あのボケナスツインズびしばし鍛えたってな。引きずり回してでも全国行き決めてや」とごんべから感情のこもっていない目で優しく肩を叩かれ言われた言葉。
その後、北信介にもわざわざ7組の教室まで行って「北君。いっつも感謝しとる上で申し訳ないんやけど、アホンズよろしく頼むな。今以上に」と懇願された為部活に行き早々に2人に突っ込む。
北の前では言えない、と思ったのかひたすら口を閉じ続ける宮兄弟に、ため息をついてアランに目配せした後に北はロッカールームから出ていく。
それを見、ほっと息をついた後に治が口を開いた。



「………グラビア、見よったん」



「は?」



「せやから、グラビア。ボンッキュッボン!の、めっちゃスタイルええやつ。同い年くらいの子もおるやん。あのモデルさんて」



「で、バカツムが身近にこんなスタイルの女子おるわけないやろ、顔可愛い子は多いけど、とか言うて」



「アホサムが4組のナントカ本さんはスタイルええけど、とかスタイルいい女子の話題になって」



「……なって?まさかお前ら」



「………ごんべ、は黙ってたら可愛いよな、胸もデカい方やろって話になった」



「で、胸のサイズ知るためにブラジャーを…」



「思わず、それで遊んでたらバレた」



「……なにしてんねん!!!!」



アランも思わずの馬鹿さ加減にワンテンポツッコミが遅れる。
そのツッコミをたまたま入って来た大耳が聞いて「…またなんかやったんか」と呆れる。
元々強かった稲荷崎高校は順調に県内優勝を納め、全国大会への切符を手にするのであった。












全国大会、烏野高校との試合後。
トーナメント表に烏野高校とあった上でコマを進めれば対戦するという都合の良い状態に意識を失いかけたごんべを宮兄弟は慌てて支える。
高校バレー界最強ツインズ宮兄弟、そして宮侑は日本ユースに抜擢され「高校NO.1セッター」と呼ばれるほどの実力の持ち主。
そんな宮兄弟は見た目も良いことから、アイドル扱いのように応援うちわを持つ女性ファンが多く試合を見に現れるほどの人気っぷりである。
なのにも関わらず、ごんべが2人に恋愛的な感情を抱かなかったのは、あまりにもバカ行動が多すぎてそれに巻き込まれて大変な思いを散々味わっているからだろう。
小学生時代にはゲームよりバレーをしよう、と誘われ断ったのに奪われたゲームの相当頑張って進めたデータを一瞬で上書き保存されて消え去り、夏休みの宿題の為にと育てていたミニトマトを全て食べられ、3人で焼いたホットケーキの大きさがサムの方がでかいだの、ツムの方が枚数増えて見た目的にずるいだの騒がれ、エトセトラ。
中学に上がり、宮兄弟が入学した後に、2人が変わらず関わるものだからファンの女の子たちに目の敵にされた際に「私なんかに構っとる暇あんならアホンズをはよ落とせぇや」と初回からブチキレた以降は一切そういう目が無くなったのは伝説に近い。
そんなブチキレる時が多く見えるごんべだが、基本は”優しい”のである。
データが消された時も、ワーワーと怒鳴り散らしたが結果また1から頑張るから邪魔すんなや、と1から進めて前のデータよりも立派ですごいものへ仕上げたし、すべて食べられたミニトマトに日記がダメになった後もすぐにリトマス紙を手作りして身近なものを調べる自由研究に切り替えたし、ホットケーキも結局ごんべが2人に分けていた。
おまけに人気が出始めてから色目を使うどころか、彼らに恋心を抱いて嫉妬する女子たちを一蹴した上で男前だ…と尊敬され始める始末。
治と侑にとって、ごんべはキレたら怖いけど面倒見のいいカッコいい姉、のような存在であった。

そんな、存在が今。
目の前で自分たちよりも年下の男の前でだらしない顔を晒している、というのは衝撃的であった。



「あ、あの突然ごめんな…?いや、ごめんなさい。試合、めっちゃカッコよかった、飛雄君、セットアップ綺麗やな…!」



「そう、ですかね。アザッス」



「あ!私関西弁で…標準語苦手やねん。名前も、あのアホツ…侑がいつも飛雄君飛雄君言うから、言いやすくて。ごめんな、初対面の女が名前で呼んだりして…嫌やったら言うてね」



「いえ、気にしないので大丈夫です」



「〜〜〜っっ!!飛雄君ってほんと!ええ子なんやね!!」



「んぬ……。あんま、嬉しくないっす」



「あの人でなしと言うた意味違うで!素直で真っ直ぐでほんっと……感動する。優しい人って意味やで!」



「…優しい、ですか。言われたことないんで、嬉しいです、アザス」



「………飛雄君、このまま兵庫来ん???おねーさん、頑張って養う」



「??? 俺、宮城ですし烏野のチームとしてバレーしたいんで行けません」



じゃあせめて連絡先教えて欲しい…もう会えんかもしれんし…飛雄君に癒されたい……よかったら、良かったらでええから!と「そんくらいならいいですよ。…あ、俺携帯上のバッグん中に置いてます」とやり取りするごんべを遠目で侑も治も観察する。
メモ紙に書いて渡しているごんべと、それをペコリ、と小さく頭を下げて受け取る影山を冷めた目で見ていた。



「……キッショい。メスの顔しとるやん」



「ツム。嫉妬か、見苦しいで」



「ちゃうわ!!あんなん俺らの知っとるごんべやないやろ!!!猫被った別人や!厚い顔の面剥いだら般若や!!お前も見たやろこの前のやつ!!ちゅーか大体俺の知り合いやし飛雄君!!!」



「まぁ、別人やな。普段ガミガミうるさいしな。まぁ俺らが悪い時がほぼやけど。ええことなんやないの。影山君、おりこうさんなんやろ」



「………プレーの話や。と言いたいけど合宿中もおりこうさんやった。ランニングして飯食うて風呂入ってすぐ寝よったからつまらんかったわ」



「もし影山君がごんべの旦那さんとかになったら、俺らの兄貴になるんかな」



「………な……?!そ、そんなん嫌やで!」



「その前にお前らの姉貴やないやろがい!!」



「ななし、そろそろ帰るで。選手やないし、あんま長居もできんやろ」



「あ、北君。そうやね、ありがと。じゃあ飛雄君!連絡待ってるからな!明日からの試合も応援してるからな!」



「ウス。ななしさん、アザス」



「ウオッ……!!!な、なぁあ北君今聞いた!?飛雄君が私の名前呼んでくれた!!」



「せやな。良かったな。ほら、帰るで。お前らもはよ着いて来いよ」



こうしてごんべは影山からの連絡を待ち、至極丁寧な文章に涙して宮兄弟に「お前らこれ見習えや」とふんぞりかえって自慢する日々がしばらく続いたのである。



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