羽ばたく鳥は空を考えるか? -1-




 あっという間の、3年生。
もう卒業だねーと笑えば、いやまだ3年始まったばっかだべ!とチョップを脳天に食らう。
全然将来の事考えてない、ぼんやりだ。
公務員なら安定していそうだけど、と考えて運動不得意だから駄目だなーなんて考えて。
卒業前にやりたい事。



「スガ君。今年は全国行きたいねー」



「うん?そーだな」



「ということで初詣で1年生部員沢山来ますよーにって祈っておきました」



「神頼みかよー!」



さすさす、と両手をすり合わせて祈るポーズをするごんべを面白そうに笑う菅原。
そう、最後の年。
今年こそ全国に行くんだ、と空を眺めれば烏が数羽飛んでいった。














新しい1年生というのは曲者ぞろいで、特に北川第一の天才セッターと呼ばれる影山飛雄。
今年はやる気のある1年生が多くていいね、なんて話をして澤村が協調性のない日向と影山を追い出して、帰路につく。
菅原とは色々…あって、クラスは違えど気にかけてくれる。



「ななしさー明日、早起きする?」



「あ、やっぱ田中君わざとらしかったよね。スガ君は?」



「勿論。何時予想?」



「7時から朝練だからー…あの元気っ子2人は1時間じゃ満足しそうにないよね。5時」



「っかー。5時は流石にキツイべ!……なんてな。起きれそ?」



「頑張る」



それから毎日土曜の練習試合の為に5時にやってくる2人を見る。
ふあー、と菅原・田中と共に大あくびをすれば「随分眠そうだな」とツッコまれる。
菅原は進学クラスだし実際頭は良い方だから勉強のし過ぎかなーなんて言うのが通るが、ごんべと田中は怪しまれるとツッコまれてしまう。
3対3も終わり、日向と影山の入部届も受理される。
ドリンクとタオルの準備をする清水潔子と並んでいれば「清水ー!ななし−!アレ、もう届いてたよな?」と澤村から問いかけが飛んできて、頷いた潔子を見て「取ってくる!」と言って段ボールを取りにごんべが走る。
そして専用ジャージを羽織った4人に対して「これから烏野バレー部として」せーの「よろしく!」と声を合わせて迎える。
元気のいい返事をしたのち、早速田中と意気投合している日向、それを見ている3人を眺めながら澤村が「スガもななしも田中も、なんか色々やってくれたんだろ?」と口にする。
それに慌てる菅原とごんべを見て、「ありがとな!」と言った主将に、潔子と菅原と3人顔を見合わせて「おつかれ」と息を合わせて肩を叩く2人を見てごんべは「ま、一番苦労したのは澤村君だもんね」と笑った。















青葉城西との練習試合。
正セッターである菅原ではなく、影山をフルで出すことを条件としたそれに、帰り道、珍しく菅原が静かでごんべは今日ばかりは一人にした方がいいのかと悩んだ。
その時「菅原さん!」と呼び止めて坂道を走ってくる影山が見えて、菅原もごんべも足を止める。
今回は自動的にスタメンですけど、次はちゃんと実力でレギュラーを取ります!と言った言葉に、菅原は「え?」と素で驚いてごんべも目を丸くした。
2人の会話を聞きながら菅原は自分の事なんか影山の眼中にはないと思っていた、と言って、ごんべ自身も初日や今までの態度から自分が一番だーと思っているタイプだと思っていたので驚いた。
それに対して本当に不思議そうに首を傾げる影山に「体力も実力もお前の方が上だろ?」と菅原が言った言葉に「経験の差は、そう簡単に埋まるもんじゃないです!…それと」と本当に困ったような言いづらそうな顔でさらに後ろから走って来た日向と田中、澤村の「菅原さーん!」「スガー!」「スガさーん!」という慕われる声に「ほ、他のメンバーからの、し、し、信頼、とか」と目を逸らした言葉に菅原もごんべも苦笑いする。
その後、澤村が驕ってくれた肉まんを食べる彼らを見て「ななしも一個食うべ」と貰って食べる。
買い食いなんて、以前は考えられなかったとしみじみ思う。
食べ終わったのち、日向のポジションについて影山に相談する姿を見ながら終わるのを待った。



「あの…俺も一緒でいいんですか」



「え?」



「その、お二人は」



言いづらそうな影山の言いたいことを察して、菅原が「違うよ、影山。ななしはなんつーか不幸体質なんだよ」とおかしそうに手を振った。



「ふこう、たいしつ」



「人助けとか、いーことしてるのにすげー疑われるっていうか。こないだ自転車からひっくりかえってた老人助けてたのにお前が転ばせたんだろー!って通りがかりの人に言われてたんだ」



「……恥ずかしながら、私、なにかと悪者になりやすいんだよね…」



「何の根拠もないのになー。学校でもそんな感じですぐ疑われてて、ななしったらなんっにも言い返さないの!俺我慢できなくってさー!なんもないところで転ぶし!」



「部活とか、気のいい人とか相手だと、普通にしゃべれるんだけど……」



「影山もなんかコイツ困ってたら助けてやってくれな!」



「………う、ど、努力します」



「ちょっと!影山君困らせちゃ駄目でしょ!」



「この疑われやすい奴の信頼を手助けするのも、信頼を得るいい練習台になると思う!」



「…なるほど」



「なるほどじゃないよ!純粋な子を弄ばないスガ君!!」



菅原の言葉で、影山が気にかけてくれるようになったごんべは、言葉は…あんまりだけど根はとても良い子で素直だな、と思うようになっていく。
青城との練習試合。
バス内で嘔吐した日向の事件でドタバタした後。
青城の生徒に喧嘩腰な田中と月島を抑えるために澤村と謝罪に入る。
かつての同じチームらしい子の言葉に大人な対応を見せた影山を菅原と田中が「大人になったなー!」と背を叩いて。
「影山君は!元からすっごく良い子だもんねー」と前のめりになった影山の頭をごんべは撫でまわした。














1セット落とした1点。
日向のサーブが影山の後頭部に直撃して、つかの間の休憩に入る。
タオルとドリンクを渡しながらごんべは影山に「大丈夫?痛いならちょっと冷やした方が」と言いながら後頭部に手を伸ばそうとして止める。



「大丈夫っス。日向のへなちょこサーブで威力はそんななかったんで」



「そ、か。よかった」



「ななしさん、心配性ですもんね」



何ともなさそうなのを確認してホッとした様子のごんべを見下ろす。
2セット目は調子を戻した日向と影山の変人速攻が炸裂。
2セット目終盤で正セッターではない、との影山の言葉に及川徹が現れる。
3セット目のあと1点というところで及川が選手交代で入ると強烈なサーブを月島狙いで打つ。
その威力は影山以上で……潔子と共にごんべは驚いた。
練習試合後。
校門前で待っていた及川の言葉の後、声をかけられる潔子を見てソロ、と目を逸らす。
潔子自体はそういう軽い言葉に乗るような子じゃないし、守ってくれる男の子たちもいるし。
そもそも、自分は声をかけられることすらないし。
そんな余計なことを考えながら歩いていたからか、何もないところで転びかける。
体勢、整えられる。
こんなところで転んだらまた、恥ずかしい思いする。
そうグッ、と体を重力に逆らおうとしていれば、お腹に腕を回される。
そのまま後ろに軽く抱き寄せられて首を動かせば「ななしさん、大丈夫ですか」と何でもないように言う影山が立っていた。
近い。
ていうか、腕、細いと思ってたのに、逞しい。
なんとなく、急激に恥ずかしくなって俯いて「あ、りがとう」と至近距離の影山の顔を見ないようにお礼を言った。
背中に当たる、影山の胸板というか、温度がさっきまで試合してたからだろう、少し熱く感じる。



「影山ー!!ななしはそういうの耐性ないんだから早く離してやれー!あとナイスだ!」



「そうだぞー!ちゃっかりお前の腕に胸乗ったの見えたんだからな!羨ましい奴め!」



「!あ、スンマセン!つい、手が出ました!そんなんじゃないんで…!」



「いや!本当にありがとう!あとスガ君たちは揶揄わないで!」



ドキドキドキ、と高鳴る胸と少し熱い気がする体温に気付かないふりをして歩く。
後ろの方で「で、ななしさんの抱き心地はどうだった!」「…柔らかかったっす」ととか話してるのなんて聞こえないふりをして菅原の「トキメキ・青春メモリアル!」とかいう言葉にバシン!と気持ち強めに背を叩いた。
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