xx


 「はぁ〜〜〜〜〜〜〜」





クソデカため息を吐きだして色が変わり始めた空を見上げる。
どこのサラリーマンだよ…という気持ちで、ある意味私もニートだったわ、と頭を抱えた。
恐らく…私はこの世界にきて、この世界が流行っていた時代…つまり私の世界で言う10年ほど若返ってしまっているんだろう。
そりゃそうか、私の持っている携帯は今の若者がほとんど手放さず持っているiPhoneタイプに対して、道行く人が手に持って通話しているそれはまだガラケーなのだ。
未来の機器を持ってる私、未来人!?と、それはそれとして体だけは時代に合わせられてしまっている。
なんでこういうことに………そういえば死ぬ前、死ぬ気で昔頑張ればよかった、なんて思いながら………ああああそういうことか、と二度目の頭を抱える行為に走る。

にしても、財布から取り出した免許証を見る。
私の顔写真は少しぼやているが、年数や更新日は元の世界のそれ。
一応携帯の連絡先も残ってはいるが、どれもこれも知らないお宅に繋がってしまった。
職場にかけてみた時なんて外国語だったぞ、ビビるわ。

夕焼けに、烏が鳴く公園の、ブランコに座り込んで、項垂れる。

気持ちはあしたのジョーだ、燃え尽きたぜ、真っ白にな。

そんな私の力の入っていない手からするり、と免許証が取られて顔を上げる。
そこにいるシルクハットを被った小さな彼は興味深そうに両面を確認すると私に差し出し、





「お前、何者だ?」





と、言った。
























「何、も、のって……」



「説明がめんどくせーが、お前が朝アホ牛の10年バズーカっていうのから飛び出たのは俺もちゃんと見てんだ」



「…………」



「普通はな、10年バズーカに被弾した対象を5分間、10年前の被弾した対象と入れ替える代物なんだが初めて誰にも被弾しないまま爆発してな…そっからお前が出てきた」



「………」



「どうせ5分すれば戻るだろう、と俺は放っておいたが、お前は今もここに居る。まぁ、バカツナは気付いてなかったみたいだがな」





リボーンの話は、胸の中をざわざわとざわつかせるには十分な話だった。
誰にも当たらず、爆発した弾から私が現れた。
10年後の、私。
でも私はこの世界に存在すらしておらず、パラレルワールドの概念のある世界でもさらに関係のない、三次元、この世界を生み出した世界に居る人間だ。
じゃあ、何?何も存在しない空間で爆発した、何もない=存在しない世界から10年後死んだ私が飛ばされてきたってこと?!
そんな偶然あってたまるかーーー!!?あったとしても5分で戻るんだろ!?も、戻ったらスプラッタ死体?!イヤーーーー!
し、死にたくねぇ…!と頭を掻きむしって唸る私の頭に小さな手が乗る。





「安心しろ。全部俺に話してみろ」



「あ、赤ちゃん…?!」



「名前知ってんだろ?俺は読心術を習得しているからな。さっきからわかりやすいほどただ漏れだぞ」





……そうだった、と私は縋るような思いですべてを話した。
元の世界でのこと。
この世界が元の世界で書籍になっていること。
自分のこと。
そしてこれからどうしたらいいのかということ。
リボーンは、ブランコを囲む鉄棒の塀の上で器用に胡坐をかいて、真剣に聞いてくれた。





「…ふぅむ。そいつはやべぇな」



「…ヤバイ?」



「ああ。お前の話は全部本当だろうな。だからこそやべぇんだ」



「………え゛」



「お前は一般人そのものなのに、これから起こる未来も、結末も、あらゆるボンゴレ関係者のことも知ってる。情報ってのは時にどんな金を積んでも手に入れられない程価値のあるもんなんだ。ここまで重要なことがボロボロ出るなら、余計にな」



「…………」



「まだ全部は話してねーんだろ?」



「……………」



「…まぁ、お前が俺にでも話したらマズイって情報もある、ってのはわかっているつもりだ。責めたりはしねーぞ。ボンゴレリングのことを話したのは失敗でもあり正解でもあるけどな」



「………」



「それを知ってるって時点で信憑性が出た、と同時にお前を野放しにもできないってこともわかった。バカツナも10代目候補として狙われやすい立場だが、それを崩せるかもしれない情報をお前が豊富に持っていると知れたら…あらゆるボンゴレの敵性武力がお前を狙うだろうな」



「ひぃぃいいい!!い、いやだ!死にたくないーーー!!!」



「元の世界に戻っても死、この世界でも隠し通さないと死、ハードな人生になりそうだな、俺はそういうの好きだぞ」



「好き嫌いの問題じゃないんですけど?!あ、あの!たたた助けてください…!私多分10年前に戻ってて…!中学生じゃどこも雇ってくれないし、家も家族もいないんですーーー!!お金も財布にあるのが全財産で…!銀行も下ろせないし!!このままじゃ殺される前に死んでしまう…!!」



「俺としてはボンゴレの情報が洩れる前に死んでもらった方が助かるんだがな」



「非情!!!!!」





ニヒルな笑みを浮かべた彼は「安心しろって言っただろ?」と言って公園の入り口に目をやった。
何…?と視線をやれば、向こうもこっちに気付いたようで歩いてくる。
つい数時間前に出会った、黒い学ランを背に風紀の腕章がまぶしい並盛町なら知らぬ者はいない最強最恐風紀委員長様だった。
夕日を背負いながら嬉しそうに微笑むとリボーンに対して「やぁ赤ん坊。こんなところで会うなんて嬉しいな」と挨拶した。





「俺もだぞ、ヒバリ」



「草食動物もいないし相手をしてほしい…と言いたいところだけれど」



「………」



「実はお前に頼みたいことがあってな」





ちらり、と私を目だけで見た雲雀君と同じように顔を私に向けたリボーン、と2人に見られている状態に焦る。
頼む…って、この赤ん坊、まさか。





「そのまさかだぞ。ヒバリにお前を頼もうと思ってな」



「なんで!!!???」



「どういうことだい、赤ん坊?」



「ああ、実はなヒバリ。こいつ家無し子で天涯孤独な俺の知り合いなんだ。俺の世話になっている家に上げてやりたいが…あそこはもう手いっぱいでな。でも放ってもおけない」



「ふぅん?だったら役所に行って施設でも案内してもらうといいんじゃない?」



「そうもいかねぇ事情があってな。強い奴に傍にいてもらいたい。俺はお前を買ってんだ。もし面倒見てもらえるなら……俺が本気でお前と勝負してやる」





…ワオ、と爛々と目を光らせて興奮した喜びに満ち溢れていますと言わんばかりの彼はリボーンを見て口角を上げると、君、と私を見る。
いやもう確かに沢田綱吉宅は、リボーン、ランボ、イーピンにビアンキ、フゥ太…と大家族に負けないくらい大人数だし厳しいだろうけどだからってなんで雲雀さん!?
強い人ならもっと他にもボンゴレファミリーの同盟とか、いやていうかいっそボンゴレ本部?!ヴァリアー……は……嫌だなぁ………と思考が混雑し始めた頃、リボーンが「その手もあるが、ツナの近くでかつ俺の目が届く範囲な上、味方内の強い奴という限定的な条件をすべて満たせるのはヒバリだけだぞ」と冷静な声が私にぶつかる。
心を読むな!
軽々と私の頭をぺしん、と叩いて膝の上に立つと私をしっかり見上げてリボーンは言う。





「お前がヒバリをよく知っていて、色々思うことがあるのも分かるが、一番賢い選択肢がこれしかねーのくらい、お前だってわかるだろ?」



「……ぐぅ」



「安心しろ、お前がこう巻き込まれてんのも俺が関係しているし、お前がボンゴレの味方である限りは俺も守ってやる」



「…………でもリボーン、雲雀君との約束……本当にいいの……?」



「ああ。俺もたまには強い奴とやってみてぇんだ」





軽い身のこなしで地面に降り立つと「じゃあな、ヒバリ」と軽く笑って公園を後にした。
残ったのは、ブランコに座り込んだ私とそれを見る雲雀君の2人だけで、影が徐々に短くなっていくのをぼんやり見ていると私の前に立った彼に見下ろされる。





「赤ん坊と約束したしね、面倒見てあげる。名前は?」



「………上杉謙信、です」



「上杉謙信ね。でも、タダでなんでもあやかろうなんて考えないでね。君にはそれ相応に働いてもらうから」





そう言って、くるりと向きを変えた彼が公園から出て行こうとするので、私も腹をくくって彼の後を追ったのだ。



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