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 夏。
照り輝く太陽が容赦なく地球を照らして、気温がどんどん上がる。
そんな温度と比例するかのように、応接室は冷え切っていた。
原因は、機嫌の悪い雲雀君。
クーラーのきき過ぎかな?と何度か温度表示されているリモコンを見返したけど、一切変わっていない適温だから間違いない。
と、言うのも先日から始まった並盛神社の夏祭りでどうやら流行りのひったくり犯が姿を出したらしい。
被害に遭った出店の人に話を聞くも、犯人が小さい子どもだということ以外わかっていなくて、しかも帽子を目深にかぶっているせいで身長差のある大人では顔が見えないらしい。
流行りということもあって、その手腕は随分手慣れたものだ。
売上泥棒だなんて、風紀を乱す代表格だろう。
おかげで雲雀君の機嫌も悪い。流行っている犯人だからこそ余計に。
これはもう、一刻も早く捕まえなければと、風紀委員の面々も一生懸命だ。
本当はこういうことは警察に任せるべきなんだろうけど………雲雀君はそれをよしとはしないだろう。





「今日は僕も出る」





その言葉に引き締まる草壁君の顔。
どう考えてもひったくり犯は調子に乗ってるから今日も必ず犯行を起こすはずだ、とニィ、と笑ったその顔は、完全に獲物を狩る肉食獣だ。
この結末も知っている私としては、あ、犯人終わったわ、という感じなのだけど。
私も昨日は、リボーンの行くであろう射的屋が襲われるのを知っていたから、見張って見たのだけど、手口としては例の了平くんの先輩たちが客として店主を惹きつけてその隙に弟君がひったくる、というものだった。
人混みが酷く、小さな子供はその人混みをもろともせずスルーっと走り抜けていくので、私も追いつくことはできなかったのだけど、それを雲雀君には報告してあるのだ。
複数犯、まぁ予想はしていたけれどね、と不満顔だった。





「君も引き続き出てよね。僕らは風紀委員で目立つけどその分君が隠れる。意味は分かるよね?」





こくり、と頷く。
私は屈強なリーゼント頭と風紀の腕章という存在感抜群な風紀委員の中で唯一目立つこともできるし目立たないこともできる。
雲雀君は風紀委員長と、並盛の顔としてあまりに有名だから潜入捜査のようなことはできない。
浴衣でも着て、祭りを楽しむ一般客に紛れ込めば、私は完全にそれと同じになれる。
お陰で昨日も、随分近くで犯行を見ることが出来たのだ。
ひったくり犯も、並中の卒業生で風紀委員のことは知っていたから、彼らだけ注視しているだろう。
じゃあ、今日こそ捕まえるから、ああ、活動費もしっかり集めるように。
私と草壁君にそう言うと、一足先に行く彼を見送る。
草壁君は集団行動の苦手な雲雀君の代わりにその指示を風紀委員の他の子に伝えるのだ。
途中から別行動だが、あまり無茶はするなよ、と心配してくれる草壁君に、もちろんだと頷いて、何かあったらすぐ言ってくださいね!遠慮するなよ上杉!と気にかけてくれる彼らに対しても、みんなこそ、相手は犯罪者なんだからあまり危険なことはしないでね、と声をかけた。

















 本来なら…楽しい光景なんだろうけどな。
一人、色んな特色のある屋台が並ぶ参道を歩く。
まだ明るい方なので、人も少しずつ増えているという具合だ。
昨日同様、雲雀君の家から浴衣をお借りしてカランコロンと下駄を鳴らす。
今回はすぐ怪しいのを見つけたら連絡を入れるように、と雲雀君に念を押されている。
でもなんというか、こういうスパイみたいなことはワクワクする。
ショバ代も本当は気乗りしないのだけど、並盛の伝統になっているならばなんだかんだで周囲も払うことに納得しているんだろう。
見回っていると射的屋の前がにぎわっている。
リボーンが1発のコルク弾で器用にほぼすべての商品に命中させ倒していた。
実際見ても信じられないくらいの腕前だな、と真顔になる。
周囲を見渡せば、沢田君も反対側でそれを見ていて、関わらないようにとこそこそしながらその場から離れて行った。
たしか……とさらに周囲を見渡せば、ガラの悪い顔があって、あ、やっぱりずっと狙ってたんだ、と顔を顰めると、右肩が少し重くなる。





「ちゃおっす」



「あ、リボーン!」



「お前も来てたんだな」



「まぁね。並盛の夏祭りは出店も多くて賑わってて楽しいね。リボーンの腕前見てたよ、さすが最強のヒットマンだね」



「あたりめーだ」





むしろあの程度序の口だぞ、と指さした先には大量の景品が詰められた袋。
俺じゃ持てねーからお前が持て。なんて言われて青筋が立ちそうになりながら、私は大人…リボーンはクソガキ…と言い聞かせて持てば「せっかく景品の1つや2つわけてやろーと思ったが、んなこと思ってる奴にはやりたくねーな」と言う。
だから心を読むなって。
どうせ暇だろ、付き合え、と拒否権すらないそれに付き合って、まぁいっか、とリボーンを乗せたまま出店を周る。
お前がいるってことは、ヒバリもいるのか、と確信めいたそれに今回は珍しく、と頷く。





「そーいやさっき、流行りのひったくり犯に全部売り上げ持って行かれたなんて言ってたな。ヒバリにとっては気に食わねーだろうな」



「ご名答。昨日から風紀委員は総動員だよ」



「そーか。おい謙信、俺はりんごアメが食いてーぞ」



「あっれー?リボーン君聞こえなかったかな?私暇じゃないんだけどなぁー!?」





ついでに聞き込みすりゃいいだろ、と何でもないように言うリボーンに呆れて息を吐き出してりんごアメ屋台に寄る。
大きいのと小さいのがぶら下がっていて、緑と赤のキラキラした飴が電球に照らされている。
どれが欲しいの?と聞けば問答無用で一番でかいのを選んで、それと、小さいサイズのりんごアメを1つずつ買う。
「あの、昨日ひったくり犯が出たと思うんですけど、こちらは無事でしたか?」とお会計と共に飴を受け取りながら聞けば、「ああ、うちはなんとか無事だったけど、そこの射的屋なんて気の毒でなぁ…今日も並中の風紀委員がショバ代集めに来るってのによ」と言う。
あ、あはは、とそれに苦笑いして、大きい飴を受け取ったリボーンは、ぺろぺろと小さい舌で舐め始める。
そーしてるだけだとほんとかわいいのになぁ、と横目で見て、「お嬢ちゃんは弟君の面倒かい?偉いねぇ。これはサービスだ」と小さいりんごアメが大きいものに変えられる。
た、食べきれないから〜〜〜!!と思ったけど好意を無下にもしたくなくて、ありがとうございます!と笑顔でお礼を言った。





「社畜精神がしみ込んでるな」



「やかましい!」



「お、そこを右だぞ」





リボーンが飴を舐めながら言った右側を見ればチョコバナナ、と屋台があって、沢田君が何か叫んでいる。
「町内会から請求書が届いてな」と私の肩に乗って飴を舐めながら言うリボーンに気付いた沢田君が「リボーン!!と、上杉さん!?」と声を上げた。
七夕大会の時、山本君が獄寺君につられて公民館の壁を破壊してしまったらしいのでその修理代を稼ぐために特別に店を出す権利を貰ったらしい。
ていうか町内会の長老たちと交渉できるリボーン怖いわ。
「あちゃーー請求書はツナあてになってるぞ」「どーせおまえがしたんだろ!!っていうか上杉さんの肩でりんごアメ食ってんなよ!!どーしたんだよそれ!!」と彼の喉はいつか壊れるんじゃないかと思う。





「まぁまぁ。これから頑張る沢田君にはリボーンとおなじりんごアメをあげるよ」



「やっぱりーーー!!!ていうか俺貰えないよ!!」



「大丈夫、代わりにチョコバナナ1つ買います」



「お、買うのかよ。おらよ」



「サンキューな、上杉!」





400円?400円な!とお金を渡して獄寺君からチョコバナナを受け取る。
お祭りでチョコバナナ食べるのは初めてだなー。
じゃあ頑張ってね、と3人の店を後にする。
リボーンは変わらず私の肩の上で減らないりんごアメを舐めていた。
「お前、普通に祭り楽しみ始めてねーか?」と突っ込まれて、はっ…として意識を戻して食べ歩きながら周囲を見渡してひったくり犯を探してみる。
まだ人がまばらだから、行動を起こすには早いだろう。
ひったくり犯に先にお金を取られないようにと雲雀君も早めにショバ代集めをしているのだし。
しばらく歩くと、見慣れたリーゼント頭が2、3人、店の前に居て、店主が焦った感じだったから駆け寄る。
「何かありました?」と聞けば風紀委員の子たちは「あ、上杉」と親しみがあるそれに代わって、店主は逆に女の子が不良の前に出たらダメだよ、といった様子で焦っている。
とりあえず落ち着いて、問題ごとですか?と優しく聞けば、ひったくりに昨日遭って、ショバ代が払えないとのこと。
風紀委員の彼らは関係ないと言わんばかりで、思わず私は待って、と彼らを見上げた。





「私たちの2つの目的を忘れちゃいけないと思います。このお店は被害者なんですよ?守るべき市民です。焦る気持ちは分かるけど、ここを後回しにして後で払ってもらえば良い事だと思います」



「でもなぁ…」



「ああ、委員長に何て言われるか」



「回収順序を変えるだけです。何の問題もないと思いますよ」





まぁ…そうかもしれないな、と納得してくれて、じゃああとで回収に来る、と言った後おじさんが唖然としていて、ごめんなさい、彼らも必死なんです…と頭を下げる。
ああいや、店が潰されなくてよかったよ、ショバ代分、頑張って稼ぐよ、ありがとな嬢ちゃんとお礼を言われた。
決してお礼を言われるようなことはしていないんだけど…。と首を振る。
そしてお店のやきとりを数本買って、歩き出すと黙って見ていたリボーンが「お前、そんなんだから前の世界で苦労したんだぞ」と口を出した。
さっきのは私も無関係ではないから、と食べかけのりんごアメを渡されて、代わりにやきとりのパックを奪われる。
それ、私の夕飯にもなるから数本残してね、と言えばほんと2本しか残してくれなくてブチキレそうになった。



















 「沢田君、お疲れ様」





リボーンと戻って来た上杉さんが、お節介だけど焼きそば差し入れだよーと3パック入った袋を俺に渡す。
な、なんていい人…!
丁度腹減ってたんだ!とありがたく受け取る。
山本と獄寺君はボールの的当てとトイレに行ってるから俺だけだけど2人にも戻ってきたら渡そう。
少し休んでもいーい?と困った顔の上杉さんにもちろんだよ!と屋台の中に入れる。
リボーンは、彼女の肩から降りると、「んじゃ、俺は踊ってくるぞ」と席を外した。
バナナの箱を見ている上杉さんは「残り1箱か!」と嬉しそうに言ってくれて「うん、やったぞーって感じ!浴衣の京子ちゃんと…じゃないや、みんなと花火見れるーー!」とぐーーっと体を伸ばして言う。
すると、突然傍らに置いていた売り上げの金庫に手が伸びて「!!」と目を見開く。
それを瞬時に上杉さんが、抑えて、帽子をかぶった少年と金庫の奪い合いをしたけど、俺はなにがなんだかわからなくて「なっ!?え!!?」と慌てるだけ慌てて、上杉さんはその間に蹴り倒されてしまって、ダッ!!と少年が走り出す。





「うっ…!ぐえ!!」



「上杉さん!!??う、売り上げが!いやそれどころじゃない…大丈夫!!!?」



「さ、さわ、だくん…!げほっ、私は良いから…早く追って……!!」



「で、でも…!!」



「大丈夫…!!ひったくり犯を逃がさないで…!」





悔しそうな顔の彼女に、すぐ戻るから!と言って後を追う。
神輿も始まって、人通りが多い中を逆走しながら階段を上る背中を見逃さないように足を動かす。
ようやく追いついた先には、並盛神社の本殿があって、ライフセイバーの先輩たちが待ち構えていた。
ひったくりは俺らの副業で夏は稼ぎ時なんだわ、と言う彼らにまさかあの海で出会った京子ちゃんのお兄さんの先輩たちがひったくりの主犯でもあるのに愕然とした。






















「何してんの」





ぐっ、と力強い腕に、いつかのように引き上げられた。
むっす、とした顔に安堵を覚えるようになったのはいつからだろうか。
蹴られたお腹を押さえて、ありがとう、と言う。





「見つけたらすぐ連絡って言ったでしょ」



「止めれると思って……」



「無理でしょ、弱いんだから。ここで待ってなよ」





手荒く、チョコバナナの屋台の中に押し込まれて、ぐっ、と紙袋も渡される。
中には大量の諭吉がいて、目玉が飛び出るかと思った。これは動けない。
身軽に屋台を飛び越えて神社の方に走って行く雲雀君の背中を見送って、戻って来た獄寺君と山本君に何があった?!と聞かれて事情を説明すればすぐさま神社の方へ走って行った。



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