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 じゃあ、班ごとに小学校の時の夢について一緒に調べるよーに、と言って終わった授業。
班…男女それぞれ同数になるように組まれた。
私と同じ班は山本君と山本君と同じ野球部の井上君と女子の野崎さんだ。
2年生になったので、1年生の時の草壁君からおこづかい事件を知っているのは山本君と野崎さんの2人だ。
ので、ちょっと野崎さんとは気まずい。
そこのところは明るく人気者な山本君が同じ班でよかったーと思う。
基本私、コミュニケーション能力は低い方なので。
じゃあさっそくどっか集まって話そうぜ、と提案してくれる山本君に、いいな!と同意する井上君に野崎さん。
野崎さん…は山本君に対して声が高いような気がするので好意を持っているんだろう。アオハルだ。
上杉もそれでいいか?と聞いてくれる彼に、「許可貰えたら…私も行くね」と言う。
夏休みも近くなってきたから、色々準備することがある、と先日雲雀君に言われたばかりだ。
ノリ悪いぞーなんていう彼らにノリだけじゃどうにもならんこともあるわ!と言いたい気持ちを抑え「委員会の仕事が放課後にあるから、それ次第なんだ、ごめんね」と謝る。





「委員会?入ってたっけ上杉」



「そーいえば委員会決めの時、上杉さんだけ免除だったね?」



「ああ、上杉は風紀委員だろ?」





え、と山本君があっけらかんと言ったそれに井上君も野崎さんも唖然とした。
山本君、気付いてたんだと言えば、ちょい前から服装検査の時、一緒に並んでるだろ?と言う。
一応隠れてるんだけど、彼には見えていたらしい。さすが。
そ、それなら許可がいるな、と打って変わって青ざめたように言う井上君に苦笑い。
最近改めてわかったことだが、基本雲雀君の機嫌を損なわなければ暴力は振るわれないのだ。
横暴な理由な時もあるけど。
んじゃあ、来れそうなら連絡くれな!と言われて山本君ありがとー!と内心感謝した。
















 応接室はクーラーがきいていて涼しい。
常にここは快適だなぁと滲んでいた汗もひいてきて、この中であれば熱い緑茶も美味しく飲めそうだ。
いつも通り準備をする私に「上杉謙信、夏祭りのことは知らないでしょ」と言われて首を傾げる。
一瞬何のことかわからなかったが、ああ、ショバ代のことかーと数秒考えて思い当たるけど首を傾げたままにしておく。





「毎年、夏祭りには活動費としてショバ代を集めてるんだよ」



「………ショバ代」



「お金はいくらあっても困らないからね、交渉にも使えるし」



「………まぁ、悪いことに使わなければ私は何も言いませんよ」





雲雀君の手がどこまで回っているのか把握してないけど、並盛中央病院の院長先生とか並盛の伝承だなんて言われているショバ代とか、並盛の不良の頂点と言われる彼だけど、いっそのこと並盛の頂点なんじゃないかとすら思う。
まぁ、実家があんなに名家だし………。
社会人の時は、お金は自分の生活費の為に貯めてるくらいの感覚しかなかったのだけど、雲雀君はそうではないらしい。
すごいなぁ。





「夏祭りは何日か続けて行われるしね、腕が鳴るよ」



「雲雀君も行くんですか。夏祭りなんて人混みの代表みたいなものなのに」



「僕は行かないよ」



「あらら?」



「君は勉強ついでに行きなよ」



「えええ?!」





そんなことは勉強したくないんですけど?!と思ったけど草壁哲也と回りなよ、と言われてそれならいいか、と思う。
大人になって読み返してから、草壁君はかなり好きなのだ。
ここの世界に来てからなお好きになった、彼は本当にいい男だと思う。
気も利くし、礼儀正しいし、信頼も厚いし。
そういえば山本君も天然を除けば同じくらいモテるのも頷けるほどいい男だと連想ゲームならぬ共通点で思い出して、やっぱり今日は行けそうにないや、と連絡しようとしたら、連絡するためにって教えてもらったメールアドレスの受信があり、「ツナんとこに偵察行って来いって言われたから上杉も来れたらツナんとこな!」と書いてあって「ごめん、やっぱり行けそうにないので、偵察頑張ってね」と送った。
なんかあった気がするけどなんだっけ…と思い出せなくて、雲雀君に「手が止まってる」と怒られてから動かして結局思い出せないまま、「ドロボー入って来たから上杉、来なくて正解だったかもな!」なんていう大事件を何でもないように報告されたのでヴェルデの光学迷彩暗殺事件があったやつか!と思い出して、「怪我がないなら良かったです」と送ったのだった。


















 「雲雀君の小学生の時の夢って何です?」





上杉謙信と帰り道が同じでもう何度も歩いた道を、突然話題を振られて眉間にしわを寄せる。
夢なんて考えたこともない、と一応答えれば、雲雀君なら並盛のことに関することだと思ったのに、と言われた。
それ、夢なんて言葉で終わらせるつもりないから、と言えばクスクス笑う。
気に入らなくて振り返って睨めば、雲雀君らしくてつい、と苦笑い。
僕らしいってなんだ。
つくづくおかしい女子だと思う。
僕の、周りが否定することを肯定したり、怖がらないし。
僕のことをわかっているとでもいうような態度が、ムカつく。
けど、言われる言葉は確かに的を得ていて、言い返せない自分がいる。
ムス、と顔を顰めるだけ顰めて、前を向く。
温かな目が、居心地が悪い。





「突然なんなの?」



「実は宿題で出てまして。小学生の時の夢を調べるんです」



「………」



「私は、そもそもそれがないんで、今日は委員会の手伝いで行けなくて助かりました」



「何、委員会を理由に宿題しなかったの?頭ひねってでも思い出しなよ」



「ん〜〜〜……」





唸るように声を上げる上杉謙信。
もうそんな記憶無くなりましたねぇ、と何でもないように言う。
ああでも、と星と月が見え始めた空を見上げて、「自分らしく生きたい、と願っていました」と言う。
自分らしく。
そんな簡単なこと?と思わず漏らす。
それが一番難しいんですよ、と笑う。





「雲雀君が、羨ましいなーって思うときはよくあります。自分らしく生きているから。強いですよね」



「そんなの当たり前でしょ。僕が並盛の秩序なんだから」



「そーういう意味じゃあなくって…」





他人を気にせず、自分を通せる意志の強さです。
目を細めて、まぶしいものを見るように僕を見た。
「私は、いつも人の顔色ばかり窺って、自分の意見も気持ちも押し殺して生きていたから、そんな自分が嫌いで、でも他人に嫌われるのも酷いことを言われるのも、怖くて結局逃げてばかり生きていたから」
遠い、本当に遠く、何を見ているのか分からない目で遠い何かを見てぽつりぽつり、零すその言葉を静かな夜道で聞こえるから耳が拾う。
そんなだから私も嘘の気持ちを言って、相手も嘘の気持ちを言って、いつの間にか何もかもが信じられなくて、一生こんな偽ったまま生きていくのかなー…って思ったら空しくて仕方なかったです。
僕には到底わからない気持ちだった。
僕は僕を偽ったことが…一度だけあったかもしれない。
両親は僕にあまり関心がない。
僕にとってはそれが当たり前だったから何も感じなかったけど、幼稚園に通うようにされてから、自分が周りと違う人間なんだと思い知った。
必ず、子供の両隣には父親と母親がいたからだ。
僕の両隣はいつも空白だった。
僕の親は並盛の歴史ある名家の出だったから、常に並盛の為に秩序を正していて、僕もその血筋だから当然のように僕の役目だと勉強して、「風紀」という言葉を知ってから常にその二文字を背負って生きている。
風紀とは、社会生活の秩序。
その頂点が、僕。
だから何も劣っていなくて、むしろ僕が優れていて、僕が正しいはずなのに、周りは僕と違って両親と手を繋いでいつも一緒だった。
そんな光景が嫌いで、弱いから親に頼るんだなんて言い聞かせて、一人で何も出来ない、群れて生きるしかできない弱虫が嫌いで嫌いで嫌いで。
目についたそのムカつきをぶつけるように暴れていたらいつの間にか不良の頂点になっていた。
そんな僕を、両親は一度も叱ったことが、ない。
不満なんてない、けど未だに群れを目に入れるとどうしようもなく腹が立つ。
その根本的な理由に僕はいつまでも目を背けている、のかもしれない。

僕から目を逸らし、空を見上げる上杉謙信を見る。
寂しそうだった。
そういえば、彼女にも両親がいないんだった。
産むだけ産んで、そのまま放置。
僕はそんな両親を恨んではいない、むしろ僕に自由を与えてくれて感謝すらしている。
ただ、一瞬でもいいから、僕を認めてほしかったのかもしれない。
今はもう薄れてしまった幼い僕の小さな願いだけど。
見ていた視線に気付いたのか、ぱっ、と僕を見る上杉謙信から少し目を逸らす。
小さく笑って僕に近づくと、「だから雲雀君の傍が安心します」と言う。
意味が分からなくて、眉間にしわを寄せて彼女を見る。





「だって雲雀君は自分に正直だから、私にも本当のことを言ってくれる。私も本当のことを言える。だから雲雀君は本当に素敵で、信じられる人ですから」



「………」



「前の私にも、雲雀君がいてくれたら少しは違う人生を歩めていたのかな……。ううん、だから私の願いは、雲雀君と出会えたことで叶ってしまったんですね」





図らずも、宿題が終わってしまいました。
照れくさそうに笑った上杉謙信に、僕は唖然として、でも、胸の中にほわほわと広がる温かなこれがさっきまで思い出していたぽっかり空いた何かを埋めていった。
雲雀君は雲雀君でいてね、と言う上杉謙信の頭を軽く叩いて、歩き出す。
そんな恥ずかしい事、クラスで発表するなんてやめなよ、と言えば、言いませんよ!と慌てた声が聞こえて、僕も小さく笑っていた。



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