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 冬休みまであと少し、という日。
終業式も近いので服装検査が行われる。
もちろん仕切っているのは風紀委員で、私も一応風紀委員らしいから、とブレザー姿に腕章をつけてリーゼント学ラン集団に混ざる。
さすがに、真っ黒い集団の中にクリーム色のブレザーな女子がいれば目立つだろう。
ので、私は草壁君の後ろに隠れて記録係に徹しさせてもらう。
草壁君は大きいのでばっちり隠れるのだ。
遅刻ギリギリにやってきた沢田君たち3人組を…服装の乱れを注意して見送って、草壁君にどれだけ違反者がいたか、と報告と確認をしながらバインダーの用紙を整える。
ぶっちゃけ字はへたくそだからこういう筆記は得意ではないんだけど…雲雀君に渡すときにはパソコンで打ち込めばいいだろう。
寒空の下、皆さんお疲れさまでした、とペコリお辞儀をして私も教室に向かおうとする。
と、呼び止められて、ガタイのいい風紀委員の男の子に「自分も報告したい者が漏れていないか確認したいです」と言われたので、はい、と紙を捲る。
彼の言った人物はしっかり記録してあったので、大丈夫ですよ、と笑顔で答えると、ありがとうございます、とお礼を言われた。





「それと、その」



「?」



「これ、時間があるときに読んでください」





バインダーの上にそっと置かれた小さな手紙は、白いノートのような用紙で四つ折りにされてある。
それだけを言うと、自分も失礼します!と去っていく彼を見送って、なんか別件で報告があったのかな…?とその場でめくってみる。
さらっと目を通して、バッ、と折りたたむ。
意味もなく周りを見渡して、「上杉、そろそろ教室に戻らないとお前も遅刻だぞ」と草壁君に声をかけられて「ああああ、そうだよね!うん、戻る!お疲れ様!」と慌てて教室へと向かった。





HR中に、こっそりと机の上に乗っているバインダーの、小さな手紙を見る。
これ、いわゆるあれだ、ラブレターの一歩前のやつだ!
じっくりはまだ見ていないけれど、ざっと見ただけでさっきの子の名前と、私と仲良くなりたいので連絡先を教えてほしい、とメールアドレスが載っていた、のが見えた。
全然接点のない、いや風紀委員っていう接点はあるけど基本私は雲雀君の近くで事務作業ばっかりでこんな手紙を貰うほど交流はないんだけどな!?と頭を抱える。
あとでちゃんと読んで、それからきちんとお断りを伝えないと……とブレザーのポケットに手紙を入れて始まった点呼にいつも通り返事をした。





「ふぁあ〜〜〜………」



「うわぁ、おっきな欠伸!」



「なによアンタ、寝不足?」



「あーーははは、ごめんごめん。家でやってるお手伝いが思いのほか多くてね〜」





そういえば終業式が近いということは冬休みが近いということで、クリスマスだってあるわけで。
並盛町の風紀第一な雲雀君の業務もその分増える。
まぁそれもあってこの間は風邪をこじらせてでも無理しようとしたんだろうけれども…。
私も必死こいて家に持ち帰って仕事をしているのだ、ここ最近は。
お陰で随分書類も減って来た。
雲雀君も見回りはすれど睡眠時間もちゃんととっているし。
そーいえば、と花ちゃんが「朝、服装検査ん時にいたわよね。隠れてたけど。アンタついに風紀委員なわけ?」と言われてそういえば言ってなかった、とうん、と返事する。





「転入当初は風紀委員じゃなかったんだけど、雲雀君のお手伝いしているうちに入ることになった…」



「なぁにそれ?てかやっぱアンタ、ヒバリと関係あんじゃん…何繋がり?」



「んー……花ちゃんと京子ちゃんにならいいか。私さ、天涯孤独ってやつでね、とある知り合いから雲雀君の家にお世話になってる身なの。だから雲雀君の手伝いとかしたくて…」



「…………」





驚いた顔で、京子ちゃんなんて辛そうにしていて、しまった、と慌てて「別に今更だからね!そりゃー寂しいときもあるけど、思ったほど辛くもないというか!私には京子ちゃんも花ちゃんもいるし!」と言えばぎゅっ、と手を握られた。
「ごめんね、辛い事聞いちゃって」と泣きそうになっている京子ちゃんの頭を撫でる。
優しい子だなぁと思えば花ちゃんも「やっぱアンタが不良だなんてありえないわ。困ったことがあったら何でも言いなさいよ?友達なんだから!」と頭を撫でられる。
ほら、こんなに素敵な友達ができてしまったのだ、悲しくも寂しいわけもない。
それに……そりゃちょっとした攻撃やワガママはしてくるけど、不器用に優しくて傍に置いてくれる雲雀君だっているんだから。
そういう事情なら風紀委員の仕事しててもおかしくないわね、と納得してくれてでもさすがに風紀副委員長の背中でもクリーム色のブレザーは目立つ、と指摘も受けてあははと笑った。


昼休みにはいつも通り購買のパンを買いに行く。
そして必ずと言っていいほど草壁君と一緒になる。
彼はたまたまだと言うけれど、絶対私のことを待ってくれているだろう、いい男だ。
今日はコロッケパンとかしっかり食べたいな、と考えていれば、草壁君が「しまった!」と声を上げたのでびっくりする。
なんだなんだ!?と見上げれば「上杉、今朝のリストはどのくらいで出来そうだ?」と言われてああそれならご飯食べてから応接室のノートパソコンを借りようと…20分もあれば出来ると思うと言うとほっとしたように胸をなでおろした。





「委員長に昼にはリストが欲しいと言われていてな…上杉が昼に出しに行く予定でよかった」



「朝にでも渡したらよかったんだろうけど、私のミミズ文字じゃ…雲雀君のトンファーが飛んできそうだから……勝手にそんな感じで考えてたけど、応接室に行ってもいいかな?」



「ああ、委員長も昼寝は屋上に行ったりするからな。最近は夜の見回りのないときも眠れているようで昼寝の回数は減っているが、問題はないだろう」



「そっか。よかった。草壁君もちゃんと寝れてますか?成長期なんだからしっかり睡眠取らないと」



「ああ…俺も上杉が事務処理をするから見回りだけで眠れている。そう言う上杉も眠れているのか?欠伸が多いぞ」



「うっ、そんなに欠伸してるかな…?元々睡眠は長い方なんだ。あとは〜並中暖房もしっかりしてるから快適で…ついつい眠気がって感じだから心配ないよ」





そんな会話をして草壁君と自分のパンを手に取り購入、じゃあまた放課後にと別れて教室でご飯を食べてから応接室に向かうんだーと京子ちゃんたちに言ってから朝のリストをクリアファイルに入れて軽く走る。
残り35分もあるから間に合うだろう、とノックすれば雲雀君がいたようで「いいよ」と声がかかる。
失礼します、と部屋に入って「上杉謙信。朝の違反者リストかい?」と言われてうーん、と微妙な顔をする。
雲雀君は大体、君としか呼ばないからフルネームで呼ばれるのはちょっと嬉しい。





「何?」



「ごめんなさい。ミミズ文字じゃ見苦しいのでパソコンで打ち出そうと思って来ました。20分ほどあればできますので待ってもらえますか?」



「………ああ、そういえば君、字がヘタクソだったね」



「うっ!自覚してるんで許してくださいよ…」



「いいよ。待っていてあげる。その前にお茶淹れて」





はーい、とクリアファイルを机に置いて給湯室でお茶を淹れる。
雲雀君はちょうど昼食を終えたところだったみたいで、置いた湯飲みをすぐに手に取って飲んでいた。
なるだけ早く打ち込みたいんだけど、結構違反者が多かったし漢字の難しい人もいる。
ブレザーのポケットに入れたスマホで漢字を調べながらノートパソコンで打ち込んでいく。
前、この機械はなんだと聞かれて小型のPCです!だなんて嘘ついた。
スマホ自体は使えるようで、そもそも使えなかったら最初に電話した数か所も繋がるわけがなかったのだと気付いてからは普通に使うようにしている。
ガラケーでもいいんだろうけどわざわざ機械を買ってもらうのも気が引けるし使い慣れたこっちの方が良い。
よし、と終わったリストをUSBに入れて印刷機を借りて印刷してから応接室に戻ると雲雀君は私が座っていたところに座っていて、リストとパソコンの画面を見比べて「確かにこれだとこっちの方が見やすいね」とバカにしたように笑った。





「ですよね。自覚してるんで!はい、お待たせしました雲雀君」



「うん。相変わらず多いね。明日から忙しくなりそうだ」



「元々忙しいでしょう、雲雀君は…。じゃあ教室に戻りますね」





パソコンを棚に戻して、応接室を出ようとしたら、ねぇ、と声をかけられて振り返る。
すっと立ち上がった彼は細身で相変わらずスタイルが良いなぁなんて首を傾げながら見ているとポケットから黒いガラケーを取り出す。
「その小型PCってやつで電話できるんでしょ?教えなよ」とにっ、と笑った。
何かあったら私は雲雀君の家にいるので、入院中みたいに家に連絡すればいいのに、とは思ったが私が外にいるときや教室にいるときにはたしかにこっちのほうが便利か、と頷いた。
登録された雲雀恭弥、の文字に思わず笑みが零れる。
すごいことだよ、あの群れ嫌いで独りになりがちな好きだった人の電話番号がこのスマホに登録されている。
ニヤニヤしていたのが気持ち悪かったのか、べしんと頭を叩かれて見上げると「何かあったら連絡するから、すぐに出てね」と言われる。





「授業中はマナーモードにしますよ。あと夜中に寝てるときは起きれません」



「口答えするんだ……まぁ、授業は学生の本分だからね。しっかり受けなよ。でも起きないって…どれだけ君、熟睡なの」



「そりゃもうぐっすり。私みたいにぐっすり眠れる睡魔を雲雀君にあげたいです」



「………睡魔は無理でしょ。まぁでも………なんでもない」



「…?」



「昼休み終わるよ。早く戻るんだね」





そう言って踵を返した雲雀君はそれ以上用はない、と言わんばかりに椅子に座った。
それを見た後、じゃあお疲れ様です、また放課後来ます、とお辞儀してから教室に戻る。


………扉が閉まった後、雲雀恭弥の手には小さな手紙があった。



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