高等学校を卒業したのちにわたしは一人暮らしを始めました。街の中心部から遠く離れた、悠久の時間を思わせる静かな土地に、アパートの部屋を借りたのです。

それはまたどうしてかといいますと、ほんの出来心だとでも申すほかございません。

ただわたしの友人たちはみな意表をつかれたようで、ある日いつもの屋上で、一人暮らししようと思ってます。と告げたときには、しばらく質問責めにあいました。

ゆっきー弟なら知ってたでしょ、なんでもっとはやく言わなかったの、と問いただす声が聞こえました。しかしわたしは家族にも双子の片割れにすら秘密にして、この計画をあっためてきたのです。

その弟は何も映していない目でわたしを見ておりました。ちくりと何かが痛むような気になりましたが、その殺那

俺はお前ら二人ぜってぇ同じ大学行くと思ってた。
ボクもです。まぁ悠太くんなら大丈夫ですよ、きっと。

二人が思い思いの表情でこちらに言葉をかけてくれました。

わたしは早くも郷愁のような気持ちにかられて、ほんのわずか口元を崩しました。



卒業式は淡々として、それでいて非常に色濃いものでした。



わたしができるだけ身軽な状態で家を出たのはその日の夜です。両親にはとうとう知らせずじまいでした。


はたと振り返って我が家のマンションを仰ぎ見たとき、一つの窓の人影とばちりと目があったのです。


わたしは視力がそれほど良い訳ではございませんが、まるく月夜に浮かぶ、黒々とした、わたしだけをみつめるその目。


たしかにそれは、祐希でした。



一朝の夢

(ほんのすこしの)



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