部活も終わり、ゆーた遅いおーそーいとさんざん駄々こねまくった誰かさんとの帰り道。ぴゅうと吹きつけた強い風に冬が本格化したことを知り、悠太は自分の幸福バロメータが急激に下がるのを感じた。
冬が来ると、悠太はきまって風邪をひく。それも、あなたの風邪はどこから、なんて可愛いものじゃない。それこそ目から鼻から喉から、薬局の風邪薬コーナーで立ちつくす悠太を嘲笑うかのように、それは押し寄せてくるのだ。
早くも鼻がグズり始めた気がする。はやくこの嫌な外気とお別れして、あったかい我が家に帰りたい。悠太はブレザーの袖で鼻と口元をおおい、すたすたと足取りを速めた。その様子をじっと見ていた祐希は、その意図を察したのか思わせぶりに呟く。ふーん。悠太が立ち止まる。心なしか目も潤み始めているようだ。

「…なに」

「いや?確かそうだったなーって思って」

「なにそれ…どういうこと」

「わかんない?」

そう言いもってから、祐希は顔をぐっと近づけた。目の前に悠太の驚いている顔が広がる。頬や鼻先はほんのりと朱に染まり、ぱちくりと開かれた瞳は水分で透きとおって。

「…えろい」ささやき終わらないうちに唇に噛みついた。

「!ちょっ…っ…」

悠太は慌てて離れようとする。しかし頭からがっちり抱え込まれるともう、身動き一つとれなくなった。ちょっと待ってよゆうき、俺風邪だから鼻呼吸できないんだけど、という悠太の心中はおかまいなしに、祐希はさらに口づけを深くしてゆく。

やっと解放された時、悠太ははあはあと肩で息をしている状態で、目にはうっすら涙が浮かんでいた。

しぬかとおもった。

「なに、するの」

初夏に飲む炭酸水のようにしれっとした顔の祐希は、

「だってゆーたが可愛いんだもん」

「…可愛いわけ、ない、じゃない…ひどい、祐希」

「そんな目で睨んでも
説得力ないよ」
いけしゃあしゃあとのたまったのだった。



よみがえる記憶

(そうだ、毎年こうなるんだった)



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